ディズニー・ミュージカル最新作『ミラベルと魔法だらけの家』監督:バイロン・ハワード氏&ジャレド・ブッシュ氏、共同監督:シャリース・カストロ・スミス氏にインタビュー!
監督たちを驚かせたリン氏の音楽
——次はお三方全員への質問になるかと思いますが、本作が完成した今だからこそ語れる、何か面白いエピソードはありますか?
ジャレド:たくさんあるけれど……これは、他の人に任せよう(笑)。
シャリース・カストロ・スミス(以下、シャリース):何を話せばいいのかしら(笑)。
バイロン:私はリンにまつわることですが、ひとつありますよ。
——ぜひお聞かせください!
バイロン:私はリンとは、これまで一緒に仕事をしたことがなかったので、音楽に対するリンのアプローチの仕方を拝見させてもらうのは、まさに貴重な経験の瞬間でした。
これまであまりメディアに対しては話題にしてきませんが、『Bruno’s Song』という曲は素晴らしく覚えやすいキャッチーで楽しい歌ですが、私たち4人でこの曲がどうあるべきかを議論していたことがありました。
この歌を、家族の中でいわば伝説的な存在であるこのブルーノについて、みながまるで街のダークな噂というか、幽霊譚のように語っている風にしたいと議論していたある金曜日の夜、Zoomで会議をしている時に、リンが「では、この歌は不気味なモントゥーノ(Montuno、キューバ音楽の種類)であるべきだよ」と言って、「タラララ~」と文字通りこの曲の最初のコード3つを演奏し始めたのです。
その場にいた全員がこれは成功する曲だと直ぐ思いました。その会議の後、リンは数日間姿を消して、翌週にはリンが家族メンバーすべての分のパートを歌っている素晴らしいデモがわたしたちの手元に届きました。
その後さらに手を加えられ、アニメーターが絵を加え、振付や新たな声がつけ加えられていくにつれ、どんどんより良いものになり、効果や照明が最後につけ加えられて仕上がり、本作というショーを代表する実に楽しい場面となる一曲になったのです。
あの時、与えられたそれだけの情報から、私たちの目の前でこんな素晴らしいものを、パパッと作曲してしまうリンの姿を見られたのは、私にとっては奇跡のようなことでした。
——そのような出来事が! さぞかし素晴らしい光景だったでしょうね!
ジャレド:私は、コロンビアでのリサーチ旅行が思い出に残っています。ある晩、何もない野原において、ギターに似た12弦のチターを弾く3人の演奏者の一団が、バイロンや私、リンと音楽チームのために演奏してくれて。記憶にはっきりと刻まれた素晴らしい夜になりました。
その音楽はすごく独特で、それから数年してリンがミランダの音楽をどんなバイブ(雰囲気)にすべきか一生懸命に悩んでいる時に、私たちはその夜のことを思い出しました。
その演奏者たちが演奏した音楽はバンブーコ(Bambuco)という種類でしたが、それは4/4でなく、ワルツのような3/4拍子なのです。ミラベルの曲にそれをリンは取り入れたのですが、結果として本作でワルツである曲はこの曲だけになりました。
これは素晴らしいことに、ミラベルが家族の他の者たちと少しだけテンポが合っていないのを表現する上で効果的になりました。
この地域独特の音楽色をつけ加えられるのみならず、そんなテーマ的な意味合いも持たせることが出来るのも面白いですし、そんなユニークなサウンドの曲をディズニー映画の主人公曲として使えることが出来たのは、実に素晴らしかったです。
——素敵なお話ですね。
シャリース:私もひとつ、思い出しました。本作では、日々ずっと長時間かけて私たちは仕事をしていたわけですが、ある日リンから「Dos Oruguitas」という曲が添付されたeメールをもらって、私はその日とても忙しく仕事をしていたのですが、ともかくプレイボタンを押したら曲が30秒ほど流れるうちに、私はもう涙が溢れてしまって。
自分のオフィスで、おいおいと泣いてしまっていました。その最初のデモの時点でも、それほど美しく感動的だった曲を彼は書いてくれたのです。この曲が間違いなく、本作においてとても強力にして感動的な場面になると、その時点で私にはわかりました。その日のことは、すごく鮮明に覚えていますよ。
——そんなリンさんが書いてくれた曲の中で好きな曲はありますか? お気に入りのシーンと併せて教えてください。
シャリース:それは選ぶのがすごく難しいですね。でも、一番お気に入りのシーンは、最後の曲「All of you」かな。
家族全員が集まって来て、リン=マニュエルがそのキャラクターたちを表す数多くのメロディをひとつに編み上げて、ひとつの大きなアンサンブルソングに造り上げるという、素晴らしい仕事をやってのけてくれています。ここでのストーリーは実に希望に溢れたものになっていて、本作のこの部分が私は大好きです。
——ちなみに好きなキャラクターは?
シャリース:キャラでは、やはりミラベルが大好きです。彼女は素晴らしいですよね。人間的で、傷つきやすい心も持ち合わせていて、ぎこちないところがあるけれど、面白いし、素晴らしいひとであり、感情移入できるキャラクターです。
——マドリガル家を通して人は助け合いながら、補い合いながら歩んでいくものだと実感しました。家族の在り方はそれぞれですが、このマドリガル家はどのように解釈して描かれたのでしょうか。
シャリース:難しい質問ね(笑)。こういったキャラクターのアーキタイプは、誰でも自分の家族の中に見つけることが出来ます。
たとえば、私の兄弟に尋ねたとしたら、彼なら“私はイサベラに少し似ていたかもしれない”と答えるかもしれません。一家の中で一番気に入れられていたゴールデン・チャイルドだった、とね。また我が家にも、普段あえて話題に上げられないおじさんもひとりしっかりいますし。
そういう意味では、自分の家族や、よく知る知人たちの経験から引き出して作品に取り入れるということをしています。それは、キャラクターを感情移入できるものにするために必要なことでもありますから。
——また、“ディズニー・ミュージカル”らしさが全面に出ている素敵な曲ばかりでした。コミカルな曲、姉妹の苦悩を表現した曲など特に歌詞が胸に響きましたが、音楽面でこだわった部分はあるのでしょうか?
バイロン:君が答える?
ジャレド:うん、そうだね。ひとつの家族の中の12人という数のメインキャラクターが本作にはいますから、全員のことをしっかり観客に知ってもらいたいと思いました。それを実現するベストの方法は音楽を通じてです。
私たちにとって大事だったのは、音楽がそれぞれのキャラクターをしっかり差別化できていること、そしてそれぞれのキャラにキャラ独特の視点がしっかり与えられているかということでした。また、各曲のスタイルとそのキャラの性格が、違和感がなくマッチして観客が納得できるものである必要がありました。
本作が進むにつれ、様々な音楽のスタイルが出てきますが、それらはどれもそれぞれのキャラクターに特化したものになっています。
これは、このプロジェクトに着手した時からそうしたいと宣言していたことですが、当初はどうやって実現できるか、見当もつきませんでした。なので、これらの曲がひとつひとつ生命を得て出来上がって来た時には、嬉しかったです。
——確かに、歌でキャラクターがどのような人物が理解しやすかったです。
ジャレド:それと「ブルーノの歌」についてはこれまであまり語ってきていませんが、この曲は本作のど真ん中に位置する曲。
アンサンブル曲で、たぶん今まで試みたことさえない手法ですが、家族のほとんど全員のキャラクターがそれぞれに歌うだけでなく、たとえば、ドロレスが何か秘密を抱えていることを観客が知ったり、あるいはカミロがどういう人間か分かったりとこの曲を通じてキャラクターたちのことを観客はもう少しよく知ることが出来るようになります。
この曲の間に、ストーリーが前へ展開しているのです。私たちにとっては、各キャラとその音楽がそれぞれに独特であると同時に、音楽がストーリーを前進させるものになってくれることは重要でした。曲が進行するにつれ、観客はワクワクするような、ストーリー上の新しい情報にも触れるのです。