【内海賢二 彼が生きた時代:連載第4回】神谷明さんインタビュー|収録が始まるとそこにいるのは完全にラオウなんですよ
後輩や若手から学ぶことの大切さ
ーーここまで先輩たちのお話をたくさん伺ってきましたが、声優として後輩たちの活躍はどのように見ていらっしゃいますか?
神谷:刺激をもらうことはたくさんありますよ。まず三森すずこさん。彼女とは何度かお仕事をさせてもらっているんですけど、あの感性と演技を楽しむ余裕というのが素晴らしいもので。『ウエスト・サイド・ストーリー』のオーディションに受かったという知らせを聞いたときは、一般の俳優さんと同じレベルで受け入れられる演技をされるようになったんだと思うと嬉しくて。
それから、個人的に関智一くん、大好きなんですよ。彼はいつでも刺激的な演技をしてくれるので、「この役ではどんな芝居をしてくれるんだろう?」と、現場で一緒になるのが楽しみなんです。
『名探偵コナン』の現場でも、高山みなみさんや山崎和佳奈さん、高木渉くんたちから毎回エネルギーをもらっていました。高山さんはメンバーの中でも演技が際立っていて、舌を巻くほど上手ですから。山崎さんは女の子のナイーブな心情というのをいつまでも自分の中に忘れずに持ち続けているんですから凄いですよね。
高木くんは元太と高木刑事のふたつの役をやっていて、特に高木刑事のほうは等身大の青年って感じなので、役者としてはそれが一番難しいんですよね。元太と比べると最初のほうは違和感がありましたけど、最近ではすっかり伸び伸びと自然にやっていて、彼の成長を感じられましたね。その努力が俳優として大河ドラマにも反映されたんですから、嬉しかったですね。
ーーそういえば、実写映画の『シティーハンター』が日本で公開されたとき、神谷さんが集大成ともおっしゃった冴羽獠の吹き替えを山寺宏一さんに譲っていましたよね。山寺さんの背中を押したのがまさに神谷さんだったそうですが、どういった心境だったのでしょう?
神谷:最初はもちろん自分でやろうと思って台本と映像を見せていただきました。そうすると、実写の映像とアニメとではテンポも台詞のスピードも違ってくるので、もちろん時間をかければできないことはないんですけど、吹き替えという生の雰囲気のなかでやっていく掛け合いのことを考えたら、迷惑をかけてしまうのは嫌だなと思ったんです。
それで誰がいいだろうと考えていたら、真っ先に浮かんできたのが山寺くんだったんです。でも、そういうのは僕が決めることではないですから。そうしたら制作会社のほうから「山寺さんにお願いしようと思っています」とありましたので、「僕もそう思っていました。ぜひお願いします」という感じで決まっていきました。
だけど山寺くんのほうはね、やっぱり悩んでいたみたいですよ。アニメ劇場版『シティーハンター』の打ち上げのときに山寺くんもいましたので僕からいち早く「山ちゃんにやってほしい」と伝えたんです。本人は断ろうと思っていたみたいですけど、僕が先に言っちゃったもんですからね。「やりたくないの?」って聞いたら「そんなことないです」との返答だったので、快く引き受けてもらいました。
完成したものを見せてもらって、あまりの素晴らしさにガッツポーズでしたね。映画を見てもらえればわかりますが、あのスピード感で的確に台詞を入れられる人ってなかなかいないんですよ。それに、やるからにはそれを楽しんでもらいたかったですから。彼にお願いして本当によかったと思っています。
ーー神谷さんは最初の声優ブームを牽引したひとりで、歌を出したりラジオ番組を持ったりと多方面な活躍をされていたと思います。現在、声優にとどまらず活躍の場を広げている後輩たちにどのようなエールを贈りたいですか?
神谷:『ラブライブ!』くらいからかな、もう少し前かな? 僕たちの仲間や後輩も爆発的にコンサートやイベントを開くようになって、TVにも出たりして大活躍してますよね。そういうのを見ると、先駆者の一人としては嬉しくてしょうがないですね。紅白に三森すずこちゃんが出たときに「どうだった?」と訊いたら、「おばあちゃんが喜んでくれました」と教えてくれて。そういう親孝行の仕方もありますよね。
僕も歌を始めたときは、紅白に出れたら凄いなって思っていたんです。夢であり僕らの最終形ってそこなんじゃないかって。まさか声優から紅白に何人も出られる時代になるなんて思いもしませんでした。数万人のお客さんを相手にできるなんて想像しただけでもわくわくするし、実際にTVでその姿を見させてもらって感動しちゃいました。
こういう勢いは止めちゃいけないですよ。自分たちの武器として続けてほしいし、後輩たちにも伝えていってほしいですね。
ーー声優を目指している方がたくさんいる時代ですが、これからの後輩たちに伝えたいメッセージなどがあれば、ぜひお聞かせください。
神谷:興味がある人はまず、声優にこだわらず芝居を勉強してみてほしいんです。続けていくうちに、いろんな表現の仕方がわかってきて楽しくなると思うので。それが歌うことかもしれないし、ラジオで喋ることかもしれない。俳優としてドラマに出たり舞台に立ったりすることかもしれない。声優もその延長線上にあるのが一番ですから。
その上で声優になりたいのであれば、自分の苦手なことを理解して向き合っていくこと。声が小さいなら発声練習を一生懸命やればいいし、滑舌が悪いなら言いにくい言葉をゆっくり何度も繰り返して言えるようになればいい。
最初はなにもできなくてもいいんですよ。苦手が見つかったらむしろ喜ぶくらいじゃないと。乗り越えればそれだけいい芝居が、いい表現ができるようになるわけですから。そうやって常にポジティブに、極めたい道を進んでいく姿勢を大事にしてもらえたらと思います。
[取材/武田結花 編集/石橋悠 構成/原直輝]
連載バックナンバー
映画『その声のあなたへ』作品情報
ストーリー
アニメイトタイムズで働く若手ライターの結花は、取材中に声優・内海賢二の存在を知る。彼に興味を持った結花は、取材企画を立ち上げて彼の声優仲間らへ取材を始める。この取材を通して彼女は、内海賢二という声優の人柄だけでなく、かつての声優業界、声優という仕事が今のような人気職業になるまでの歴史を知っていく。
スタッフ&キャスト
配給:ナカチカ、ティ・ジョイ
監督・脚本:榊原有佑
制作:and pictures
企画:株式会社CURIOUSCOPE
逢田梨香子、伊藤昌弘、内海賢太郎、勝杏里、かないみか、神谷明、柴田秀勝、杉山里穂、谷山紀章、戸田恵子、浪川大輔、野沢雅子、野村道子、羽佐間道夫、水樹奈々、三間雅文、山寺宏一、和氣あず未 (五十音順)
公式HP:sonokoe.com
公式Twitter:@SonoKoe_0930