【内海賢二 彼が生きた時代:連載第6回】山寺宏一さんインタビュー|「声優といっても役者であり表現者」内海さんからもらった言葉を胸に
若手の勢いに飲み込まれないように
ーー先輩たちから学んでいるというお話ですが、やはり最近では後輩や若手から学ぶことも増えているんでしょうか?
山寺:もちろんです。どんな芝居をしているんだろうって興味津々ですよ。あわよくば盗みたいと思っているので、なるべくスタジオの中にいるようにしたいんですけど。ここ最近はコロナでスタジオに決まった人数しか入れないので、それも難しくてなってしまっていて。勢いのある後輩たちがどんな演技をしてるのかと思って出番がないのに見に行くなんてこともしていたんですけどね。
ーー山寺さんがこれまで参考にされてきた方を教えてもらってもよろしいですか?
山寺:まず養成所の頃からお世話になっている羽佐間道夫さん。日本の古典芸能への造詣が深くて、言葉の大切さや表現についていろいろとを教えていただきました。僕も学生時代落語研究会に所属していたので、落語についても話し合ったり。
実は先程話した若い世代との向き合いかたでも影響を受けたんです。レジェンドである羽佐間さんが「若手も含めていろんな世代から吸収したいと思ってる。山ちゃんからも学びたい」とおっしゃって。
僕自身、活躍してる若手に対して「どうせ人気だけだろう」なんて思っていた時期でもあったので、先輩のそういう姿勢が本当に衝撃的で。というか自分が恥ずかしくて、このままではいけないと感じました。
ーー内海さんや羽佐間さんの世代の方って、声優としての存在感もそうですが、表現者としての姿勢に芯が通っていますよね。その真摯さってどこから来ているものだと思いますか?
山寺:所謂レジェンドと呼ばれる方って、声優という言葉が生まれる前から役者をしていて、数ある表現の中でも声を生業とすることを選んだ人たちがほとんどだと思うんです。
当時は仕事をする人の数が少なくて、同じようなメンバーで顔を合わせることが多かったとか。にもかかわらず、個性的で存在感があり、名声優として語り継がれる方が多いのは、ある意味不思議な事です。舞台出身の方が多かったからなのか、声の世界のパイオニアとして切り拓いて来た結果なのか。でも今は声優そのものの数がとてつもなく多いので、逆に生き残っていくのは大変な時代です。メディアに取り上げられる事も多くなりました。
そんな中、光るものを持っている若手がどんどん出てきて、アピール力も自己プロデュース能力も高い。SNSの使いこなし方も上手い。その勢いに埋もれないように僕なんかは必死になってるんですけど。レジェンドと言われる方たちって、その中でも存在感が色褪せないんです。役が代替わりしても「やはりあの方じゃないと」となってしまう。
ーー最近の声優業界というのは、山寺さんのレベルでも危機感を覚えるほどなんですか?
山寺:もちろん常に感じてます。だからこそやり甲斐がありますよね。
僕は唯一無二の声を持っていないですから、器用さでやって来たところもあります。若い頃「器用貧乏になるなよ」と何度も言われて来ましたが、これからは自分ならでは表現力を発揮出来るよう腕を、いや声を磨き「器用金持ち」を目指そうかなと(笑)。
とにかく、多くの先輩方がそうであったように、これからも自分との戦いを続けていくことになるんだろうなと思います。
ーー最後に、山寺さんの感じている、声優であることの誇りや喜びを教えてください。
山寺:日本のアニメって世界に誇れるエンタテインメントですよね。そこに声優として関われるのは本当にありがたい事ですし、優秀なクリエイターの方たちが時間をかけて作り上げてきたものの重要なところを任される訳じゃないですか。誇りであると同時に責任重大ですよね。
そして、声優の喜びの最たるものは、本当になんにでもなれるということ。老若男女はもちろん、例えば動物とか、虫とか、カビとか、神だって。演じる仕事の中で役の幅が最も広いと思うんです。アニメだけじゃありません。オスカーに輝くような映画の登場人物も演じる事が出来る。この僕がハリウッドの2枚目スターをやったっていいんですから。
こんなに面白い仕事はないですよ。これからもいろんな役を楽しみながら演じていきたいし、皆さんの期待に応えられる声優でいられたら幸せだなと思っています。
[取材/武田結花 編集/石橋悠 構成/原直輝]
連載バックナンバー
映画『その声のあなたへ』作品情報
ストーリー
アニメイトタイムズで働く若手ライターの結花は、取材中に声優・内海賢二の存在を知る。彼に興味を持った結花は、取材企画を立ち上げて彼の声優仲間らへ取材を始める。この取材を通して彼女は、内海賢二という声優の人柄だけでなく、かつての声優業界、声優という仕事が今のような人気職業になるまでの歴史を知っていく。
スタッフ&キャスト
配給:ナカチカ、ティ・ジョイ
監督・脚本:榊原有佑
制作:and pictures
企画:株式会社CURIOUSCOPE
逢田梨香子、伊藤昌弘、内海賢太郎、勝杏里、かないみか、神谷明、柴田秀勝、杉山里穂、谷山紀章、戸田恵子、浪川大輔、野沢雅子、野村道子、羽佐間道夫、水樹奈々、三間雅文、山寺宏一、和氣あず未 (五十音順)
公式HP:sonokoe.com
公式Twitter:@SonoKoe_0930