映像として映し出されていたものなのか、頭の中で作り出されたものなのか。多面的にイマジネーションを喚起させる作品世界──『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』音楽・鷺巣詩郎さんインタビュー
映画三部作『ベルセルク 黄金時代篇』の公開から10年。TVシリーズ『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』として、鷹の団の、あの輝かしい時代が再び語られていく。
原作は言わずとしれた三浦建太郎による同名コミック。2022年6月時点で全世界累計発行部数5,000万部(紙+電子)突破する、世界で愛され続けるダークファンタジーが、STUDIO4℃による鮮烈な映像表現でアニメーションとして描き出される。メモリアル・エディションでは映画版では描かれなかった「夢のかがり火」など原作珠玉の名シーンを追加。毎週土曜日24:30~好評放送中だ。
アニメイトタイムズでは、かつての制作秘話、新規シーンへのこだわりなど作品に込めた想いをスタッフ&キャストが語り明かす連載インタビューを実施。第8回は、映画三部作で『ベルセルク』の世界を幾重ものCue(曲)で表現し、「10年を経て新たによみがえるべく映像表現に、作曲家としての加筆は必須」として本TVシリーズへも新たなる楽曲を提供した鷺巣詩郎さんのインタビューをお届けする。
若いオーディエンスとの出会い、新しくファンになっていただける可能性に満ちている
──『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』の制作決定の報が届いたときのお気持ちを教えてください。
鷺巣詩郎さん(以下、鷺巣):準備期間を含めると当時から約12年が経過しているんですよね。自分でいうのも何ですがとても精密に音楽を作り込みましたし、音楽以外もあらゆる面で作り込まれた素晴らしい三部作でしたので、より多くの方に見ていただきたいとこの10年間ずっと思っていました。ソフトも発売されているのでご覧になった方も多いと思いますが、TVというメディアで放送することで新しく出会ってくださる方もいると思いますので、とてもうれしい知らせでした。
10年経ったということは、当時はまだ子どもで作品を観ることができなかった方にも観ていただくことができるという変化も面白いなと思います。若いオーディエンスとの出会い、新しくファンになっていただける可能性に満ちている。メディアが多様化し、テクノロジーも音響も進化しているので、みなさんにどのような反応をしていただけるのかが楽しみです。
また、三浦建太郎先生が描かれた原作のファンはもともと世界中にいらっしゃいましたが、この10年以上でさらに増えたと思います。三浦先生が亡くなってしまったことは、この世界にとって大きすぎる喪失ですが、しかし、それでも素晴らしい作品が残っています。『ベルセルク』があらためて世界のファンのもとへ届けられるという喜びがあります。
──映画制作では、三部作のそれぞれを1本の映画として、映画音楽を構築していかれました。TVシリーズとして再構成されていく今作へはどのように臨んでいかれましたか?
鷺巣:映画三部作を合わせて1クールに分割するだけでなく、毎回OPやED、CMが入るのがTVシリーズなので、その流れに合わせて、アジャストしていきました。映画では劇場にお客様を留めておけますが、TVは様々な状況で見られるじゃないですか。楽しみ方の種類が多くなるというのは、僕にとっては非常に興味深くて。ながら観をしたり、何話もまとめて観たり、あるいは倍速で観たり、楽しみ方はそれぞれの自由だと思っています。今の言い方でいうとダイバーシティ、多様性の中でどう作品が届いていくのか。その自由度が上がったことは、クリエイティブの現場にとっても大きな刺激がありますね。
この10年間でいろいろなものが進化しました。社会の進化、テクノロジーの進化、ネット速度もかなり速くなりましたね。倍速での観賞が定着したのも、早く送ってもほとんど問題なく再生できるテクノロジーあってのことです。再生の技術だけじゃなくて、もとの音もそれだけ機密に設定されている。今回のメモリアル・エディションも音響は5.1からステレオにダウンサイジングしているのですが、ダウンサイジングといっても音響テクノロジーはこの10年でとても進化しているので、音質自体は実を言うとアップグレードしているといっても良い仕上がりになっています。ですので、ダウンサイジングという言葉にすると何かこじんまりした印象になってしまうと思うのですが、音響的には進化していると胸を張れるものになっています。
──TVシリーズ版で監督を務められた佐野雄太さんとはどんなやりとりをされましたか?
鷺巣:佐野監督にとっては、窪岡俊之監督から引き継ぐというプレッシャーはとても大きかったと思います。テレビ用に構成し直すというのは大変な仕事ですからね。映画の音響のように後ろからくる立体の音はありませんし、画面も小さくなりますので、いろいろな課題がありました。佐野監督とは美術設定などの確認も含めて、連絡を取り合っていきました。
日本のアニメが世界に誇れる大きな要素のひとつは、美術設定だと感じています。見えないところにまでこだわることで、キャラクターだけでなく、大道具小道具が発する世界の空気も大切にしていくのがお家芸だと思うのです。
映画制作時には窪岡(俊之)監督は実際にヨーロッパへ足を運んだくらい美術設定にこだわっていました。窓を止める金具さえもしっかり設定を作られて。それは黒澤明監督、小津安二郎監督などの制作現場から脈々と受け継がれている、道具までも大切にする日本の職人魂なのではないかと感じていました。
例えば、剣を振り下ろした時や剣がぶつかりあった時の音など、西洋中世からルネサンス前までの世界観を我々現代人が肌で感じるのは難しいのですが、そんなリアルさまでも追求した窪岡監督の考えを、今回引き継いだのが佐野監督です。