秋アニメ『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』若木民喜さん(原作)×髙橋龍也さん(脚本) インタビュー|いろんな制約の中を切り抜けて、紡がれた物語【連載第1回】
2023年10月から放送がスタートするTVアニメ『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』。原作の『16bitセンセーション』は、秋葉原が電気街から美少女で溢れるようになっていくような時代の変遷を美少女ゲームを作る人々の視点で辿っていく同人誌で、美少女ゲームが今のオタクカルチャーにどのような影響を与えてきたのかというのが知れる面白さがあった。
それを原作にオリジナルストーリーで制作されたTVアニメ『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』は、その知識が得られると同時に、主人公がタイムリープをすることによって、物語的にも何が起こるかわからないワクワク感が詰まったものとなった。もちろん原作に登場するキャラクターも活躍するので、また新しい物語として楽しんでほしい。
『ANOTHER LAYER』がどのようにして生まれたのかを、原作者である若木民喜先生と、Leaf三部作(『雫』『痕』『To Heart』)など、ビジュアルノベルシリーズを手掛け、当時のPC美少女ゲームのど真ん中で歴史を築き上げてきたシナリオライターで、今作にも参加している髙橋龍也さんに話を聞いた。
『ANOTHER LAYER』で主人公を秋里コノハにした訳
――90年代の美少女ゲームの実情を描いた『16bitセンセーション』の原作は同人誌として販売されましたが、どのようなきっかけでスタートしたのでしょうか?
若木民喜さん(以下、若木):みつみ美里さん(アクアプラス)、甘露樹さん(アクアプラス)とは、アニメ『神のみぞ知るセカイ』(以下、『神のみ』)からずっと繋がりがあって、たまに会っていたんです。その中で、こういう企画あったら面白いよねって話をしていて、僕は内心かなりやりたかったので、そのあと本当に始めることになったという流れでした。
ただ最初は、そんなに長く続けるつもりはなかったんです。でも気づけば7年やってるぞ?っていう(笑)。それも1冊目の同人誌を出したときに、周りの人がすごく盛り上がってくれて、話したい人が世の中にはいるんだなって思えたからなんです。
そしてイラストレーターだけでなく、いろんな関係者に話を聞くうちに、ゲーム制作会社全体の話になって今に至るという感じですね。でも、早くこれを終わらせないと次に行けないので、今必死こいて漫画を描いているところです(笑)。
――90年代からの美少女ゲームの歴史を辿れて面白いですよね。
若木:途中からは僕の思い出話が半分ですけどね(笑)。でも考えれば考えるほど不思議なんです。なぜ美少女ゲームだけがこんなにも突出したのか。初期の『メガストア』(雑誌)とかでは、エロ漫画もエロビデオと同じ土俵で比べられていたんです。それがだんだん美少女ゲームがすごく取り上げられるようになり、いつの間にか秋葉原のど真ん中で金曜日になるたびに大騒ぎするような状況になっていた。それを不思議だなぁと思った思い出を描いているような感じでした。
――若い世代からだと、それは知らないことでしょうしね。
若木:若い世代は、美少女が秋葉原にあることが当たり前の状況で暮らしているけど、僕が上京した頃は、そんな感じでは全然なかったですからね。
――普通に電気街でしたよね。
若木:90年代後半までは普通に電気街だったし、美少女ゲームの話題を堂々と話す状況になったことにすごく驚いたんです。それでも今世紀に入ってからですけど。そんな思い出話を編年体で綴った作品がほしい!と思っていたので、それを僕がやったというだけです。
――その原作がアニメ化されるというのは、驚きの展開だったのでしょうか?
若木:でもアニメはやろうという話は最初からしていました。やっぱりみつみさんたちのような大きなサークルになってくると、そういう話がすぐに出てくるんだなと思って。ただ具体的にというのはだいぶあとになってからで、コロナ禍となる直前くらいでした。
それもコロナ禍の影響で一度話がなくなり、そこからまた戻ってきてという流れだったんです。これはもうないかなと思っていたら、アニプレックスさんでやることになっていて、「話聞くたび、規模がデカくなってるやん!」って思っていました(笑)。これ美少女ゲーム題材ですけど大丈夫?って、自分で言うのも何ですけど、思っています。
――シナリオライターの髙橋龍也さんが入られたのは、どういう流れだったのでしょうか?
髙橋龍也さん(以下、髙橋):実は僕が参加したのは、シリーズ構成の打ち合わせもだいぶ進んでからで、物語もだいぶ固まった状態だったんです。でも同人誌版から内容ががらっと変わっていたので、「こんなにアニメで好き勝手変えて、若木先生は怒らないんですか?」と聞いたら、変えたのは若木さんですと言われ、「え!?」ってなったのがスタートでした(笑)。
――今回は『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』と、タイトルも変わっていますが、変更した理由というのは?
若木:放送話数のリミットがあるアニメのフォーマットを考えてのところはあります。同人誌はいつ終わるか分からないし、(歴史を追うから)どんな話になっていくかも分からなかったので、主人公を無色透明ぎみの上原メイ子にしたんです。ただリミットがある物語だと、ひとつひとつの要素に色を付けていくキャラのほうが動かしやすいし、もっと能動的に話を動かしたいと思い、秋里コノハという主人公を設定しました。
タイムリープというのも、いろんな目的があってそうしているんですけど、一番の理由は「このほうが面白そうだから」です。
――美少女ゲームの歴史だけでも要素は多いのに、その上タイムリープ要素があると、まとめるのも大変そうだなと思ったのですが。
若木:そのタイムリープに対する考え方も、現代と以前とでは違っていて、過去に戻った時に出会う過去の人が思っている概念とも違うので、そういうことも含めての異文化交流をさせてみたかったんです。それはオタク文化についても同様で、例えば『To Heart』のシナリオを書いた髙橋さんがいなければ、今の世界は考えられないわけです。そんな『To Heart』を経た世界から来た人が、昔に行って活躍する面白さってあるよなと思ったんですね。
だから僕はタイムパラドックスなんてないと基本的には思っていたし、そこにこだわるのはもう古いと思っていたので、これでいいんじゃない?って、あまり気にせずに進めていたところに髙橋さんがスタッフとして入ってきてくれて、いろいろツッコまれて焦るという(笑)。
髙橋:過去に戻って歴史を変えると、色んな種類の影響があるけど、そのどれを採用していますか?という話はしました。あとは、現代の知識を持っている人が過去に行ってしまうと、いくら時代の転換点となったゲームだろうが古臭く思うのではないか、企画で考えていた反応とは真逆になるのではないか、という懸念は相談しました。
若木:それはみつみさんも言っていたよね。
髙橋:作品内で当時の絵が最新だ!と言って、実際画面に出てくると、あれ?って思うんじゃないかなって。
若木:だからこそコノハを主人公にしたところはあるんです。僕もDOSゲーを面白い!と思って当時やっていたけど、それを人には薦めないと思うんです。だって今やったら面白くないもん(笑)。でもそれを面白いと感じさせるためには、面白い!!と言い切るキャラクターが必要だと思って、メイ子とは違う反応を付けられるコノハを出したんです。
髙橋:そうですね。最初はそれが懸念点となっていたのですが、実際話を進めると、認識のズレそのものがテーマだったので、懸念も解消されて、大丈夫だと思いました。コノハは当時のゲームの文化をリスペクトする気持ちが強いし、テクニック云々ではないストーリーにもなっていくので。
――アニメって、90年代の作品を見てもすごいなって思うんですけど、ゲームだとハードの話にもなっていくので、また違うのかもしれませんね。
髙橋:アニメは全然色褪せないですよね。
若木:テクノロジーって陳腐化しやすいから難しいんですよ。美少女ゲームにとって、コンピュータがど真ん中にあるという要素は大きくて、コンピュータの進化とゲームの進化って、途中までシンクロしているところがあったんですけど、そっちの部分は六田守に担ってもらって、PCのうんちくを語ってもらっています。