秋アニメ『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』若木民喜さん(原作)×髙橋龍也さん(脚本) インタビュー|いろんな制約の中を切り抜けて、紡がれた物語【連載第1回】
若木民喜先生がリミッターを解除したらこうなる!という作品
――台本の打ち合わせでは、昔話などで盛り上がったのでしょうか?
髙橋:昔話はしたと思いますけど……。
若木:コロナ禍でもあって、シナリオの打ち合わせがすべてリモートだったんです。ただリモートって雑談が少ないんですよ。それこそ『神のみ』の時って、打ち合わせの半分以上が雑談で、物語に一切出てこない話をずっとしていたけど、リモートだとテーマに絡んだ話しかしない。だからもっと雑談があっても良かったなとは、個人的に思いました。
髙橋:それに録画していましたからね(笑)。
若木:誰かの悪口とか絶対に言えない(笑)。ただ、僕はずっとひとりで物語を書いていたので、絶えず不安だったんです。これで合っているのかどうなのか。ホントのことを言うと、「軽口の中で観測気球を上げたい」みたいなときがあるわけです。リモートだと「どうですか?」と聞いても「いいんじゃないですか」という答えしか返ってこないから、それは本当に困りました。しかも回線の問題で顔が出ていない人もいたし。
――声だけだと、どのくらい良いと思っているのかが分からないですからね。実際に会ったときに得られる情報量の比ではないんですよね。
若木:本当にそうなんですよ!
髙橋:確かに、みんな分かった感じで進んでいくので、疑問に思ったところなどは、個人的にLINEで聞いたりはしていました。
若木:髙橋さんは本当にそういう役割でいてくれて、いろんなレスポンスをくださったので、ものすごく頼りにしていました。
髙橋:今回僕は、「アナザーレイヤー·メインストーリー」という肩書きで参加をしていて、そこには若木さんと自分の名前があるのですが、ストーリーラインは、ほぼ若木先生が考えているんです。なので自分は、話数ごとの脚本家の皆さんに情報を伝えるのと、脚本のフォーマットにするに当たっての監修をしているような役割でした。それをまた監督や若木先生がチェックをするから、若木さんの作業量はものすごかったと思います。
若木:メインライターが不在の期間が長く続いたので、全部自分でやるしかなかったんですよね。途中、あまりにも不安で難しくなってしまったところで髙橋さんが入ってきてくれて(笑)。髙橋さんも、こんなに関わるとは思っていなかったと思うんですけど、めちゃめちゃ関わってくださって、僕もだいぶ安定したんです。だから髙橋さんは(漫画家の)編集者のような役割だったと思います。
――若木先生にとっては救世主的な存在でもあった。
若木:それは間違いなくそうです。なんせ髙橋さんですから! この同人誌を作る以前から交流がありますし、安心感はありますよ。何だかんだアニメ業界のことはよく分からないので、そういう点でも、いてくれるだけで安心感がありました。
髙橋:僕の入った頃、「同人誌版に戻してもいいですよ」っていう話もあって、アナザーレイヤー案と原作案の2択があったんです。現場では原作案が強かった気がしますが、若木先生と個人的に意見交換をしたところ、これはアナザーレイヤーで行ったほうがいいと思い、僕と、それから監督はそちらに1票を入れさせていただきました。ただそうなると、書けるのはもう若木先生ご自身しかいないっていう(笑)。
若木:そうなんですよね。原作通りならば丸投げで良かったけど、オリジナルとなると、やるしかないんです。でも結果的にはそうして良かったし、髙橋さんがいなければ最後まで辿り着けなかったと思うんです。本当に髙橋さんのおかげです。
髙橋:いや、週刊連載を持たれている漫画家さんが、毎週打ち合わせのためにプロットを書いてくれて、脚本の監修までしてくれる。それって他の現場ではありえないことなので、若木先生大丈夫かな?って心配になりました。
若木:しかも毎週律儀に直してくるしね(笑)。免許の更新に行ったときに、自分の白髪の増え方にびっくりしましたから(笑)。
でも僕からしたらこれはご褒美なので、自分が見たいものを出していくだけでした。実際に描かされるほうはたまったものではないと思うけど、何でも自由に、好きに書いていいですよと言われていたので、お言葉に甘えさせてもらいました。
髙橋:実際は脚本から絵コンテになる段階で、尺の問題などでカットになることもあるから、どこまで忠実に反映されているかは分からないですけどね。
若木:それでも自分で絵を描かなくていいとなると、こんなに作品って自由に書けるんだ!とは思いました。無意識に自分の画力でリミッターをかけていたんだなって。今回は人にお願いできる! しかもそれを台本にしてくれるのが髙橋さんで、キャラクター周りをみつみさんや甘露さんが(原案を)描いてくれているのだから、こんなチートで始められる現場ってないんですよ(笑)。
――確かに。
若木:ものすごくないですか? 幸せだし得難い経験ですよ。
――思う存分、リミッターを解除できますね。
髙橋:だからプロットの所々に若木先生ならではの物語のぶっこみ方があって。ジャンル的にはSFになるんだろうけど、いろんなぶっ飛びアイデアを随所に入れてくるんです。なので若木先生節だなぁって思っていただけたらと思います。
若木:『神のみ』でも会っていた、とある声優さんに「どうだった?」って聞いたら「すげー民喜臭するわ」って言われて(笑)。
髙橋:若木先生が好きだったもの、当時印象に残っていたものがエッセンスとしてふんだんに盛り込まれているし、全部にリスペクトがある感じが出ているんですよね。
若木:それが最終的にどこまでサバイブしているのか(笑)。
髙橋:若木先生のプロット通りに事象は流れているけど、カメラをどこに向けるかは監督の判断でもありますからね。