新キャラクター・黒江真由をはじめ、一人ひとりを“人間”として描きたい――『響け!ユーフォニアム3』石原立也監督×小川太一副監督インタビュー|いろいろな立場があって、どの視点も納得できるのが『ユーフォ』の面白さ【連載第2回】
4月7日(日)から放送がスタートした『響け!ユーフォニアム3』。吹奏楽に懸ける高校生たちの青春を描く大人気シリーズの最終編で、『響け!ユーフォニアム2』以来、7年3か月ぶりのテレビシリーズということもあり、第1話から大きな注目を集めています。
アニメイトタイムズのインタビュー連載第2回では、京都アニメーションの石原立也監督と小川太一副監督への対談インタビューを実施! 監督(一部の作品では総監督・監修)を務めてきた石原監督と、『劇場版 響け!ユーフォニアム〜届けたいメロディ〜』の監督で、昨年8月に劇場上映された『特別編 響け!ユーフォニアム〜アンサンブルコンテスト〜』からは副監督を務めている小川副監督に、放送されたばかりの第1話の内容にも触れながら、今後の見どころなどをうかがいました。
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ようやく久美子をしっかり描ける
――今作では、主人公の黄前久美子たちも3年生となり、ついにシリーズが完結に向かいます。そのことについては、どのようなお気持ちなのでしょうか?
石原立也監督(以下、石原):これまでも何度か体験していますが、作品を作っているときは、その世界に住んでいるような感覚になっているので、関わってきたシリーズ物が終わるときには、いわゆる「●●ロス」みたいに、もう世界の終わりくらいの気持ちになります。まあ、まだ仕事が続いているので今はまだその気持ちではないのですが(笑)。
小川太一副監督(以下、小川):僕は、寂しさというよりは、終わった後、ただ消費されるのではなく、観てくれた人たちの心に何かを残せるような作品になれているのかが気になっています。
皆さん、そういう心に残っている作品があると思うのですが、そういう作品には何らかの理由というか、何か決め手になるものがあると思うんです。それがどんなものなのかは、それぞれに違うわけですが、そういった作品になれるように取り組んでいるので、観ている方にもその「何か」が伝わって欲しいなと思っています。
――第1作で北宇治高校に入学してきた黄前久美子、加藤葉月、川島緑輝、高坂麗奈も今作ではついに3年生になりました。成長した4人のどのような姿を描いていきたいと考えていますか?
石原:僕は、成長というものは、その人が変わろうとするのではなく、環境が変えるものだと思っていて。今回も久美子、麗奈、緑輝、葉月、それぞれの置かれた立場で変わっていくものだと考えています。
自分たちで作品を作っているのに、こんな言い方をするのも変なんですが、(成長が)作為的になるのは嫌なんですよ。何かのシミュレーションみたいに、こういった設定があって、その中にこういう性格のキャラクターを放り込んだら、勝手にキャラクターが動いてくれる、というのが理想的なのかなと思っています。なので「こんな風に描きたい」ということはなくて……。もちろん、みんな成長しているんですけどね。
小川:高校3年生というのは、将来のこととか、それぞれがいろいろと考える時期なので、そういうところの描きがいはありましたし、そこが見どころの一つかなと思います。
――1年生から2年生になったときと、2年生から3年生になったときの変化は、また大きく違う気がします。
小川:そうですよね。1年生のときって先輩しかいないじゃないですか。それが、2年生になると先輩も後輩もいて、3年生になると今度は後輩しかいない。このステート(状況)の違いは面白いし、考えさせられるところがあるなと思います。
石原:学校というシステムは、堅苦しい場所だと思っていたけれど、そう考えると意外に悪くないというか、面白いシステムですね。進学して大学生とかになると、学生とはいえ、もうほぼ大人じゃないですか。高校3年生という、その直前の時期を描いていて感じたのですが、今回、久美子と滝(昇)先生の関わり方が、けっこう大きかったりするんですよ。
――身近な大人として、吹奏楽部顧問の滝先生との関わりがフィーチャーされるのですね。
石原:大人になる直前だからか、久美子の目がそっちに向いていくんです。ただ、これ以上、4人の成長について何かを言うと、わりとネタバレになるんですよ(笑)。
小川:石原さん、ポロッと言っちゃうから(笑)。
――では、この4人の中で、描いていて特に成長が分かりやすかったり、注目して欲しかったりするキャラクターは誰ですか?
小川:一番注目して欲しいのは、やっぱり久美子かなと思います。
石原:そうだね。
小川:3期までやってきて、ようやく久美子をしっかり描ける。そこが一番大きいかなと思っています。
――第1話の放送前に公開された座談会で、久美子役の黒沢ともよさんも「今回は、何回も頑張りどころがある」と仰っていました。
石原:本当に、ずっと頑張らなきゃいけないんですよ(笑)。
小川:今回、黒沢さんはかなりしんどかったんじゃないですか?
石原:僕も見ていて、そんな雰囲気は感じました。久美子が元気無いと言うのは語弊があるのですが、部長なりのしんどさがいろいろとあって。
小川:黒沢さんも、まさにそれを感じ取っていましたよね。
石原:そのあたりを実際はどう感じていたのか、黒沢さんとも話してみたいですね(笑)。
黒江真由は、単なる物語の仕掛けではない
――第1話のラストには、注目の新キャラクター・黒江真由も登場しました。真由に関して、ネタバレにならない範囲で魅力や描き方のポイントなどを教えてください。
小川:真由は、作り手としても、とても難しいキャラクターです。
石原:僕はとりあえず可愛く描きたいなと思いました。
小川:それは満場一致ですね(笑)。あとは、どのキャラクターもそうなのですが……。というか、ここで「キャラクター」という言葉を使うのは適切でないかもしれないですが、しっかりと自立した「黒江真由」という人物として描いていきたいと思いました。(他の作品で)ドンと出てきた新キャラクターが、始まってみたらかませ犬でした、みたいなことってあるじゃないですか(笑)。
――中盤にはもう存在感が無くなっている、みたいなことはありますね(笑)。
小川:ストーリーの構成上、そういう展開もあるとは思うんですが、黒江真由に関してはそういうことはなくて。噛めば噛むほど味がするようなキャラクターになっているはずなので、楽しみにしていて欲しいと思います。そこは、けっこう物議を醸す部分というか、観てくださった人の立場や経験してきたことによって感じ方も変わってくると思うので、僕自身、皆さんがどう感じるのかを楽しみにしています。
石原:僕は真由、好きですよ。
小川:ふんわりとしていて可愛いし、雰囲気も柔らかいですしね。でも、転校生がユーフォニアムを持っているという情報だけで、皆さんそわそわしていると思うんです(笑)。平たく言ってしまうとミステリアスなキャラクターでもあるので、そこがどんな風に紐解かれていくのか、そして久美子がそれをどう受け取っていくのかも、今回のお話の見どころの一つだと思います。
――石原監督は、真由を好きだと仰いましたが、どのようなところが好きなのですか?
石原:まあ、いろいろな意味でですね(笑)。当初は、久美子のライバルキャラであり、鏡に映ったようなキャラクターかと思っていたんです。でも、今言ってくれたように、小川が黒江真由の人間性をすごく大事にしてくれたので、単なる物語の仕掛けとしてのキャラクターではなくなっていると思っています。
――真由を演じるのが戸松遥さんだと発表された昨年の「新情報発表会」では、戸松さんが「1話のアフレコの前に、石原監督からは『とにかく難しいキャラクターです』」と言われたと話していました。
小川:すごく雑に振っていますね(笑)。
石原:ただ、難しいとは言いつつも、真由の心境になってみれば理解はできるんですよ。
――宇宙人のように理解不能な相手ではない?
石原:そうなんです。そういう相手に対して、久美子部長がどうしていくのか。そこがポイントかなと思います。
――釜屋すずめ、上石弥生、針谷佳穂、義井沙里の仲良し4人組をはじめとする、新1年生も入部しました。この4人の魅力や描き方のポイントを教えてください。
石原:どうしても久美子に感情移入するので、久美子の立場で見てしまうのですが、そういった意味では“やや厄介な可愛いやつら”だよね(笑)。
小川:厄介だけど可愛い。まさにそうですね(笑)。あと、4人一緒にいることも多いので、それぞれの性格の違いなどは考えるのですが、さっきお話しした真由と同じで、「一人一人がしっかりと人間になるように」ということは考えました。
――すずめと弥生の分かりにくいギャグに、笑い上戸の佳穂が笑ってしまうという関係性が可愛いです。エンタメとして滑るギャグを描くのは逆に難しかったりするのでは?
石原:でも関西の笑いって、そんなノリですからね。
小川:滑りギャグみたいな。でも、弥生とすずめは、拾ってもらおうと思ってギャグを言っているわけじゃないんですよ。ただ言いたいことを垂れ流しているだけなんです。そこに、バランス良く佳穂という人材がいて笑ってくれるという。弥生とすずめは、笑ってもらえて嬉しいとは思うんですが、阿吽の掛け合いを狙ってやっているわけではないんです。
――佳穂も拾ってあげている意識はなくて、ただ面白いから笑っているわけですね。
小川:そうです。そして、その環境に慣れきっていて、程良く整えてくれる沙里(笑)。この4人のバランスは面白いし、何とも言えないこの幸せな空間を楽しんで欲しいですね。