春アニメ『夜のクラゲは泳げない』連載第1回:監督 竹下良平× 脚本 屋久ユウキ|強い想いをぶつけ合って創り上げた第1話、一番意識していた部分は「運命」
ついに放送がスタートしたオリジナルTVアニメ『夜のクラゲは泳げない』(ヨルクラ)。監督:竹下良平 × 脚本:屋久ユウキ × アニメーション制作:動画工房が贈る青春群像劇で、第1話は、光月まひる(CV.伊藤美来)と山ノ内花音(CV.高橋李依)の2人が運命的に出会い、何かが始まる予感を感じさせるものになっていた。
インタビュー連載第2回では、竹下良平監督とシリーズ構成・脚本を担当する屋久ユウキさんに、第1話を振り返ってもらった。
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強い想いをぶつけ合って創り上げた第1話
――第1話、本当に素晴らしかったです。何度も観てしまうほど映像的にもきれいで、話にもグッと引き込まれました。ただ、オリジナルアニメの第1話でもあるので、この作品はどんなものなのかなど、すべてを詰め込まないといけないという意味で、大変さもあったのかなと。
屋久ユウキ(以下、屋久):第1話は、本当に難しかったです。
竹下良平(以下、竹下):一番脚本を練り直したし、コンテを描いてからのやり取りも多かったんですよね。
屋久:そうでしたね。脚本って普通は5~6稿いったら、結構直したねって感じになると思うんですけど、第1話は、プロット脚本それぞれが10数稿までいっていたんです。だからそれをコンテに落とし込んだあとも、普通コンテって気になる矛盾点をいくつか直して終わりなんですけど、そこから3回くらいは意見交換をして、細かい芝居だったり、キャラ感をすり合わせたので、とにかく時間をかけた印象があります。
しかも第1話って、やらなければいけないことが多くて。説明しなければいけないことが多い中、ちゃんと感動も生まなくてはいけないから、すごく苦労しました。
――監督としても、第1話はものすごく気合いが入るところですしね。
竹下:オリジナルアニメの第1話ですからね。私としては脚本の最終稿ぐらいの感覚で1話の絵コンテ作業をしていました。私が第1話の映像のテーマにしていたのが「運命」です。だから、2人の人生の交差を意識したコンテに仕上げていました。ですが、元の脚本から結構変えた部分もあったので、シーンによっては皆のOKが出ない部分もあって(苦笑)。
例えば現状の2人が手を取り合って走るラストシーンも、コンテではまひると花音がふたり一緒に電車に乗って帰るシーンにしていて。そこでお互いが同じクラゲ柄の靴下を履いていることを知るラストを設計していました。1話は電車の音を感情演出の小道具として使っていたので、ラストも電車でオチをつけるつもりだったんです。結局その案ではなく、自分も含めて皆が納得出来る、元の脚本ままの今のラストシーンになりました。
屋久:そうでしたね。その意味で、脚本から僕と監督のお互いの要素が入っているのが第1話なんです。歩道橋での2人のやり取りもコンテで変わっていて、「花音ちゃんって特別じゃん。自分が嫌いなんて思ったことないでしょ」というセリフはもともとあったんですけど、その前のまひるの長尺セリフがコンテのときに追加されていて、内容も今と違ってて。
竹下:コンテでは、もっと強いセリフにしていたんです。特別な女の子に対する、普通の女の子からのやっかみを正面から描きたいと思っていたので。特別でなんでも持っていると思っていた子が、その子の過去を知ることで、自分と同じように傷つき普通の感覚を持っている女の子だと知る。ここをまひるが少しだけ大人になる一つ目の成長シーンにしたかったんです。だから歩道橋のシーンをより激しく子供っぽく描こうと思っていました。でも激しすぎるという意見を受けて、今のような少しマイルドな方向に修正しました(笑)。
屋久:あはははは(笑)。まひるっていう女の子は、ちょっとひねくれた視点を持っているけど、普段はそれをそんなに出せなくて、「自分なんて」という気持ちがどうしても拭えない子だと思っていたんです。自分を俯瞰で見ちゃっているからこそ、出しゃばったことはできないし、目立つことも恥ずかしい、みたいな。
本当は特別になりたいけど、できない自分がいて、それが俯瞰で見えているから、そんな自分が嫌いっていう。説明すると複雑なんだけど、みんなその気持ちわかるでしょ!と思っていたし、その絶妙なラインを大事にしたかったので、歩道橋のシーンで花音を責めるのは、まひるっぽくないのかなって。やっかみはもちろんあるし、そういう感情は絶対にあるんだけど、それを俯瞰できてしまっている女の子だから、そんなに強く言えるかな?と思ったんです。
だったら相手のことを言うよりも「私って平凡な女子高生だし」みたいな、「自分なんて特別じゃない」っていう感情がどろっと出たほうが、そういう女の子っぽいのかなと。なので、強いセリフを言っていた尺に合わせて、自分を俯瞰しているまひるらしいセリフを新しく考えて、コンテに合わせて入れさせてもらって。もちろん、まひるの表情は変わるんですけど。
竹下:第1話は、コンテ段階でシーンが追加されたり、元の脚本から変わっている部分もあって、皆でたくさん話し合ったから僕と屋久先生の思い入れも強いと思います。その分フィルムとしては一番強く仕上がっていると思うんですけど、全話通して観たときに、自分が一番迷った話数でもあって。初めて監督としてオリジナル作品を世に出すに当たって、もっとこうすれば良かったんじゃないかと思う部分が多く残った話数でもあるんです。
――個人的には、どのシーンを切り取っても胸に突き刺さるところばかりでした。歩道橋のシーンも、フィルムスコアリングかと思うくらい劇伴が映像とマッチしていて感動しましたし。
竹下:あのシーンは音楽もそうですけど、メインアニメーターである太田慎之介さんも素晴らしい仕事を残してくれて。作品を理解した上で、高い日常芝居作画で上手くバランスを取ってくれたんですよ。