八奈見杏菜が”負けヒロイン”たる所以を一気に出したかったシーンとは? 『負けヒロインが多すぎる!』連載 第1回:遠野ひかるさん(八奈見杏菜 役)インタビュー
“負けヒロイン”たる所以を一気に出したかったシーンとは?
――ここからは第1話について聞いていきます。杏菜は、袴田草介(CV.逢坂良太)との言い合いから始まりましたが、2人とも若干大げさな感じで、コメディ要素も感じたんです。この掛け合いは、どんなところを狙ったお芝居だったのですか?
遠野:逢坂さんが持って来てくださったベースから、もうあの感じだったんです(笑)。ちょっとコテコテと言いますか、言ってしまえばくさい感じで。あ〜、草介だ! 草介、そう来たか〜と思いました。
しかも、テスト・本番と重ねていくごとに、どんどん濃い味になって、マックスまで行ったときに、私が吹き出してしまって。みんなも笑いが止まらなくて……。すみませんと謝罪しました(笑)。だから、あそこはギャグとして、面白く見ていただいていいと思います。
――シチュエーションと内容は、シリアスなんですけどね……。
遠野:そうですね。杏菜としての想いはちゃんとあるんですけど。
――自分も草介が好きなのに、華恋(CV.和氣あず未)のところへ行ってあげてと言っちゃってますし。
遠野:とても! とっても切ないんです。しかも、自分の想いを草介に伝えたわけでもないのに、結果として負けたという形になったところがより切ない。第1話の終わりにかけての杏菜の心情としても、バツっと振られたわけではないから、気持ちの整理に時間がかかるんですよね。
――ファミレスのシーンで、草介の飲んでいたストローに口をつけるのは、なかなかに残念なシーンでした。
遠野:あははは(笑)。
――そこからの吹き出し具合も最高でしたが、どうでした?
遠野:ちゃんと台本には、ブハッ!って3回書いてあるんですよ。作品によっては録ったものを繰り返して使いますが、ここは全部やってます。3回ちゃんと吹き出してます。
あとここは「もっと汚くていいよ」ってディレクションをいただいたのも覚えています(笑)。なので、負けヒロインたる所以をここで一気に出したいという気持ちはありました。
――そのあとに温水くんとの会話がありましたが、温水くんとはこのあとも掛け合いが多く続くので、大事なシーンではありましたね。
遠野:そうですね。とんでもない出会いですよね。クラスメイトではあるけど「同じクラスの温水くんだっけ?」くらいの印象しかない。このやり取りだけで、彼のクラスでのポジションとキャラ感もが何となく伝わる。あと脳内でのツッコミとか、オタクみのあるモノローグも“らしさ”が全開で面白かったです。
杏菜の勢いに巻き込まれて、この2人、これからどうなるんだろうってワクワクしながら見てほしいなと思う掛け合いでした。
――傷心の女の子に、ポテトを頼んだかどうかを問い詰めたり、温水くんも、杏菜にそんなに興味がないのもいいんですよね。
遠野:単純に、ただただ杏菜の地雷を踏まないよう口に出す言葉を選んでくれていますよね。なんだかんだ杏菜の一人語りに付き合って、受け止めてくれたところに、優しさを感じました。
――ローズヒップティーを温水くんが淹れて来てくれる間に、きっとポテトフライを頼んでいたんでしょうね。このあたりは、短い中で、やり取りを想像させる演出が良かったです。
遠野:アニメではギュギュッとして、気持ちのよいテンポでストーリーが進んでいきますが、小説では細かく描かれている部分も多くあります。ここでこんなやり取りをしていたんだっていうのがわかったり。だから合わせて見ていただくというのがオススメです。
原作ならではの温水くんの脳内語りや、直接的に恋愛の進みには関係ないやり取りなども是非読んでいただきたいです!
――難しいのは、ネタバレになってしまうことですね。
遠野:確かに! アニメを見て原作を読むスタイルを私はお勧めします。
――それにしても華恋は、いかにも勝ちヒロインでしたね。ピンク髪だし、和氣さんですし。
遠野:“乳牛女”で、突然クラスにやってきて、幼なじみから男をかっさらっていく……とんでもない勝ちヒロインでした。
――普通のアニメだったらヒロインということですからね。彼女メインの物語があったら、王道ラブコメなのかもしれない。
遠野:いやぁ、そうなんですよね。でも杏菜役として、華恋と草介のやり取りも見てきているので、軽々しくそっちを見たいとは言えなくなってます(笑)。
――確かに。第1話でも、一緒にカラオケに連れてかれましたから…。
遠野:あのマラカスを振っているときの虚無の顔、大好きです。いい顔でした。
遠野さんが好きなキャラクターは?
――第1話で、温水くんがどんなキャラクターなのかが結構見えてきましたが、遠野さんから見て、温水くんはどうですか?
遠野:温水くんは、自分のスタイルを良しとして、誇りを持ってあの生活を楽しんでいるんですよね。小説を買って趣味に没頭し、陽キャグループに入りたいわけでもなく、水道水の飲み比べを楽しんでる……。しかも、そんな自分が好きそうなんですよね。普通っぽい男の子なのに、すごく自立してる。ヒロインたちとのラブコメとしての展開が、こんなにハマらない男の子っているんだ!と思いました。
――確かに、杏菜みたいなかわいい子に話しかけられたら、多少意識はしますよね。
遠野:そうですよね! でもむしろ関わりたくなさそうだし、巻き込まないでくれよって感じで。手作り弁当も、そんなに嬉しそうじゃないんですよね。でも、あの引いた顔もいいですよね(笑)。
恋愛に直接介入してこないからこそ、負けヒロインたちが隣にいて居心地がいいんだろうなって思いました。居てくれて良かったです。
――杏菜的にも、良いキャラクターですよね。
遠野:杏菜の居場所ですから。杏菜的には草介たちの隣には居づらいし、空気も読める子だから、クラスの雰囲気を壊さないよう気を遣っている。故に、整理できていない恋心のもどかしさを外に出せずにいるので、それを吐露できる存在なんです。非常階段に居場所を作ってくれた温水くんには、杏菜役として「ありがとう」という気持ちがあります。
――それと、第1話、キャラクターがたくさん登場しました。遠野さんが好きなキャラクターは誰ですか?
遠野:もったいぶらずに出してくれるんだ!って思いました(笑)。みんな個性が強いんですよね……。個人的に好きなキャラクターは、温水佳樹ちゃんです。温水くんの妹で、すごくかわいいんですよ! みにゃみ(田中美海)の声もたまらないんですよね!
とにかくかわいいのに、言ってることが結構冷たい。そして本当にお兄様のことを思っている。母っぽい言動をする完璧な妹として、めちゃめちゃいいです!
ヒロインたちと恋愛としての絡みがない温水くんの唯一の羨ましいポイント。そんな妹いるのいいな!っていうところで、温水くんのバランスが保たれているところもあるのかな〜なんて思います。ただ、お兄様のことが大好き過ぎて、一線を越える発言も多いので、どこまで温水くんを見守っているのかは注目ポイントですね(笑)。
――たいてい温水くんの部屋にいるって言ってましたしね。
遠野:かなり怪しいし、冷静に考えると怖いんですよ(笑)。
あと、甘夏(古奈美)先生も大好きで、上坂すみれさんのはっちゃけたお芝居は聞いているだけでテンションが上がります。第1話では甘夏先生がプリントをぶちまけて、授業の範囲を間違えているよって教えてあげるシーンのアドリブも楽しくて。温水くんの「先生のクラスの生徒です」というモノローグ台詞の裏で、尺におさまらないくらいアドリブを続けていました。(本編では、甘夏先生の名残惜しそうな「ビザンティン…」に対して、とっさに返した「ノン・ビザンティン!」の部分を採用していただいてましたね(笑)。
――そして第1話のラスト。「私、振られたんだな」は、結構シリアスなシーンだったと思うのですが、ここは色味も空も涙もきれいで、お芝居含めてすごくいいシーンでした。
遠野:ここは、テイクを沢山重ねることなく、自然体でやらせてもらったものにOKをいただいた感じでした。テンションの振り幅とか、第1話最後のこのシーンまで怒涛の勢いで来るので、ここでちゃんと真剣な恋の物語であるということが印象づけられると思います。
杏菜は乙女心をちゃんと持っていて、それが青春の切なさとして描かれる。負けヒロインだからこそ描けるところがここに詰まっていると思うので、しっかり伝えたいなと思って演じました。言葉としても、この吐露の仕方がリアルだなと思いました。振られたー! うわー!じゃなく、ちゃんと自分の気持ちに気づいていくっていう。どうしようもないものを抱えたまんまの状態で溢れ出した想いが涙として出てくる。それを温水くんが受け止めてくれて、最後はちくわを食べられるところまでいけるので、杏菜らしいといえば、杏菜らしいシーンですね。
――そこでいい言葉を言うでもなく、「俺、振られたことないから、よくわからないな」という温水くんもいいですよね。
遠野:そうですね! 絵としてはドラマチックなんですけど、やり取りは自然で。あえて全てを言葉にせず、心情の動きをアニメーションで見せてくれる感じ。切なさと儚さと青春の青さが表されているところが素敵だと思いました。
――そのあとの杏菜の「LOVE 2000」(カバー楽曲)のED映像は、実写も入ったアニメーションでしたね。
遠野:実写を使った大胆な演出で、個性的な色のあるEDが素敵です。豊橋市の街や学校を駆けていく杏菜の足を見て、「マケイン達がそこに居るんだ」って感じられました。映像としての疾走感が曲に合っていて、素晴らしかったです。
――最後に、第2話のポイントを教えてください。
遠野:次は檸檬ちゃん回です。杏菜がまず負けて、そこから描かれる檸檬……。次の負けヒロインは誰だ!というところを楽しみにしていただきたいですし、そこに温水くんが居ることによってどうなるのか。あと、杏菜と温水くんの何となく続いている中での関係値にも注目していただきたいなと思っています。
[文・塚越淳一]
作品概要
あらすじ
キャスト
(C)雨森たきび/小学館/マケイン応援委員会