『ATRI -My Dear Moments-』連載第8回：日笠陽子さん（キャサリン役）｜夏生の感情の揺らぎを見ていく内にキャサリンも変わっていった

演じる自分の心に身を任せた

――ありがとうございます。今後序盤からの借金問題が解決したことで、キャサリンからアトリへの接し方が変わりそうです。物語中盤以降の掛け合いはどんな雰囲気で演じられているのでしょうか？

日笠：序盤では加藤監督から、本当にアトリを物として扱っていい、キャサリンは自分のために商品取引をする感覚でいる、と伺っていました。そして、物語が進んだ今の段階では、アトリには感情があるかもしれないと思いながら接しています。キャサリンもアトリと夏生の触れ合いや、アトリの一生懸命さに心動かされたんじゃないかなと。

　
私は相手の心に触れないと、自分も変わらないと思っていて。おそらくキャサリンが変わっていっている様が描かれているのは、やっぱり彼らの心に触れたから。それも無理に変えていこうとしたのではなく、どこか人間らしい。

あんなにも無感情で仄暗いところにいた夏生が少しずつ前を向いて歩き出したり、自分の気持ちが恋なのかと葛藤したりする。そんな夏生の感情の揺らぎを見ていく内に、キャサリンも変わっていったと感じています。

だから私自身も感情を作るのではなく自然に、演じる私自身の心に身を任せたような感覚がありました。心の素直さみたいなものに嘘をつかずにいようというのはとても意識したと思います。

――そんなキャサリンに共感できる部分はあったりしましたか？

日笠：似ているところや共感できる部分は、生きることに必死なところでしょうか。一生懸命がゆえに他に道はあってもこれしかないと思ってしまう。そういう空回り感は似てそうな気がします。
あと、酔っ払いや酒飲みなキャラクターを演じることも多い一方で、私自身はコロナ禍を経てほとんど飲まなくなりましたね。ただ、飲んでも1〜2杯程度で序盤のキャサリンみたいにベロンベロンになることはないので、そこは違うのかなと思います。

――また、ここまでのエピソードで日笠さんが気に入っているキャラクターは？

日笠：野島竜司とアトリのやり取りはなんか可愛いですよね。このふたりのやり取りはピュアとピュアがぶつかり合っていて、見ていて心が温かくなりました。

竜司は本当にただただいいやつで、みんなそれぞれ目的やほしいものがあったりする中で、彼のさらりとした気遣いや優しさはアトリを応援している側として救いになりました。

　
役者的な部分では、アトリの純真無垢さや可愛さみたいなものに赤尾さんの一生懸命さが本当にマッチしていて。赤尾さんの良さ＝アトリの良さみたいに感じたアフレコでした。

――そろそろまとめに入ります。アニメ『ATRI』の物語も折り返し地点になりますので、今後の見どころもお願いします。

日笠：やっぱりアトリに感情があるのかないのか、今風にいえば“AIの学習機能なのではないか”という部分が見どころになるんじゃないかと思います。ネタバレになってしまうので詳細は明かせないのですが、先日収録した後半における水菜萌のある台詞が私はかなり心に残りました。

　
結局感情は誰かから受け取ったもので、それを自分がどう感じるかだと思うんです。だからアトリに感情があるんじゃないかと思ったのならきっとある。ロボットには感情がないとされますが、アトリから貰った温かい気持ちや嬉しい気持ちは嘘じゃないし、自分たちの中に残った真実だと思います。

だから感情があるない、とかではなくて、一緒にいた時間やもっと大事なものがあるんじゃないか。そう思わせてくれるエピソードが終盤に向けて加速していきます。アトリや夏生の小さな変化を感じ取ってもらえたら嬉しいです。

また、第7話以降はシリアスなシーンやしんどいシーンも少し増えていきます。そういう時は第1話や第2話に戻ってもらって、キャサリンの変顔でリセットして備えてもらえたらと思います！

――最後に今後の放送を楽しみにしているファンのみなさんへのメッセージをお願いします。

日笠：この作品の原作はノベルゲームと呼ばれるジャンルで、いくつかエンディングが用意されてはいるものの、基本的にはひとつの結末に向けて進んでいく印象でした。私もアニメ化するとは思っていなかったのでとても驚いています。この作品を通してみんなとお芝居をしながら、生きるっていうことが何なのかを改めて考えられて幸せです。

AIという存在が身近になった2024年の今この時に放送されることに意味も感じますし、色々な人に何かを気づいてもらえるんじゃないかとも思っています。結末を見るのが楽しみです。原作ファンの方もきっとそれを楽しみに待っていてくださっていると思います。

アニメから入ってくださった方は、アトリと夏生の今後はもう予想もしなくて構いません。ふたりの行く末を、ただただ見守ってください！

［文・胃の上心臓］

作品概要

あらすじ

原因不明の海面上昇によって、地表の多くが海に沈んだ近未来。幼い頃の事故によって片足を失った少年・斑鳩夏生は、都市での暮らしに見切りを付け、海辺の田舎町へと移り住んだ。身よりのない彼に遺されたのは、海洋地質学者だった祖母の船と潜水艇、そして借金。夏生は“失った未来”を取り戻すため、祖母の遺産が眠るという海底の倉庫を目指して潜る。そこで見つけたのは、棺のような装置の中で眠る不思議な少女――アトリ。彼女は、人間と見紛うほどに精巧で感情豊かなロボットだった。海底からサルベージされたアトリは言う。「マスターが残した最後の命令を果たしたいんです。それまで、わたしが夏生さんの足になります!」