告白ゴールの対極、“告白スタート”のラブコメ。純を通してリアルな恋愛を描くーー『恋は双子で割り切れない』インタビュー連載第8回:監督・中西基樹さん
電撃文庫から刊行中の『恋は双子で割り切れない』がTVアニメ化! 2024年7月10日よりAT-X、TOKYO MXほかにて放送中です。
白崎純と琉実・那織の神宮寺姉妹は小さいころから家族同然で育った幼なじみ。特定の関係を持つでもなく交流を続けてきた3人の関係は、ある日、琉実が発した一言でいびつな三角関係へと変わっていきます。
アニメイトタイムズでは放送を記念してインタビュー連載を掲載中! 第7話放送後の今回は監督の中西基樹さんに制作の裏側、これまでのエピソードを振り返ったお話を伺いました。
琉実は大人で那織は子供?
ーー今作のアニメーション制作を手掛けるROLL2は新興の制作スタジオですね。
中西:ROLL2さんは、今作が初めての元請けとなる作品です。新興のスタジオということもあって、20代、30代の若いスタッフがメインとなって参加しています。若い力でなんとか頑張っているところです。
ーー監督ご自身もお若いですね。
中西:僕は32歳です。
ーー(笑)。若いスタッフが多いとそれだけ活気もありそうですね。
中西:業界内ではアニメの制作現場の例えに、“文化祭の準備期間がずっと続く”という言葉があります。今作の制作現場もその言葉のように、みんなが率先して良い作品を作ろうというモチベーションでいるんじゃないかなと思います。正直、老舗のスタジオさんと比べたらまだ慣れていないところはありますが、少数精鋭、アットホームに取り組んでいるところです。
ーー初の元請けということでスタッフのみなさんにとっても大きな経験となりそうですね。
中西:この作品を機に頭角を現していくスタッフがいるんじゃないかなと期待しています。僕自身、彼らがのびのび取り組めるような環境をセッティングできていれば嬉しいです。
ーー制作面でのチャレンジも多かったのでは?
中西:作品的に奇をてらったことは特にしていないです。原作がライトノベルということで、会話が一番の魅力になるので、僕らが映像面で目立とうとするのではなく会話に力点を置くようにしています。ただ、シーン単位で作画さんの個性が出ているところもあるので、視聴者の方にはぜひ作画面や演出面も見てほしいなと思っています。
ーーそんな会話劇を視聴者に魅せるためにどんな工夫を?
中西:ひとつは純と那織のオタクトークですね。パロディネタとかは見ている側が全部の元ネタを知らなくて当然なんですけど、そこであえて1個1個を説明しないようにしています。実際のオタク同士の会話ってそんなものだと思うんですよね。全体を通して見たとき、すべての小ネタはわからなくてもふたりの会話が楽しかったと思ってもらえるように作っています。
ーーパロディネタといえば、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『スター・ウォーズ』ですね。
中西:それらの作品はわかる人が多いと思ったので、あえて説明チックにならないように表現しました。ほかにもマニアックなタイトルがたくさん出ているんですけど、そこは気になる人はぜひ検索してみてくださいというスタンスです。今はSNSを見れば解説してくれている人がたくさんいますから。僕らとしては心地の良いテンポ感を作ることに重点を置いています。
ーーでは純と琉実の会話についてはいかがですか?
中西:琉実は那織よりも純との関係性に真剣なんじゃないかなって。純との関係性以外でも、彼女は誠実に向き合おうとしていますよね。それゆえに琉実との会話はストレートパンチが飛んでくるといいますか。1個1個の言葉が重いんですよね。一方の那織はツンツンするくらいで、踏み込んだパンチはしてこなくて。そんな姉妹の違いを踏まえると、必然的に琉実との会話は真剣な雰囲気になりますし、セリフ量も少なくなっていて。ただその分、自然な会話シーンが描けているんじゃないかなと思います。
ーー姉妹の性格の違いが大きく出ていますね。
中西:琉実と那織の差はこの作品の大きな要素だと思います。特に、琉実というキャラクターは、ラブコメ作品のヒロインの中でも「ここまで生っぽい感情を持っている子がいたのだろうか」というくらいに思っていて。彼女は、“好きだから付き合えたら良い”みたいなわかりやすい行動原理なのではなく、“好きは好きだけど、ただ自分が付き合う”だけがゴールではないんですよね。
それは、周りの人のことを考えてしまって、客観的に付き合っちゃえば良いじゃんという場面でもその選択ができなかったりするからで。そこは彼女の魅力ではありますが、3人を悩ませている原因でもあるなと思います。
一方で那織というキャラクターは、琉実と比べて子供っぽさがあります。子供の頃のような3人の関係を続けていきたい、という想いが前提にあるから純に踏み込むことを恐れていて。今後、3人の関係性に変化がありますが、結局、彼女が目指しているものは純を攻略することよりも、今の生ぬるい関係を続けることなんですよね。そこが琉実と目的を共有できない理由であり、違いなんだと思います。そして、そこが複雑に絡み合っていくことで話がこじれていくんですよね。
ーー以前、純役の坂田将吾さんのインタビューの際、原作者の髙村先生が「結婚するなら琉実で、彼女にするなら那織かもしれない」とおっしゃっていたとお話されていました。
中西:先生がおっしゃった理由はわかります。今のお話と繋がっていて、琉実は責任を持って真剣に人と向き合おうとするけど、那織はそこまでの関係になりたくない、と。やっぱり那織は子供で、琉実は大人だということなんでしょうね。
ただ、第6話までの段階では、那織がどうしたいのかがまだハッキリとしていないんですよね。これまでの話で那織は、純と付き合っているつもりはないと言ったり、琉実のことを手玉に取っていたりと、主導権を握っているような立ち位置に見えました。ですが、実際は那織がドヤっとしているときほど、内心は不安定で、決して全てを思い通りに操っているわけではないんですよ。
実際は純と琉実が関係を進めたら自分が置いていかれてしまう、仲間はずれにされちゃうかもしれない、だから場をひっかき回して、なんとか自分を間にねじ込んでいて。そこは彼女の魅力でもありますし、第7話、第8話くらいから本音に迫っていく展開になっていきます。
ーー今後、より那織の魅力が伝わっていきそうですね。
中西:那織の魅力はここからです。これまでのオタク友達としての一面だけではなく、めちゃめちゃかわいいところが出てくるのでぜひ注目してほしいです。
ーーずばり、監督ご自身、琉実と那織のどちらが好きですか?
中西:逃げるわけではないんですけど(笑)、琉実と那織は純のものなんですよ。もっと言えば、純、琉実、那織の三角関係って誰も割って入れないんです。なので、僕としてはあの3人の関係を見守っていたい派です。どちらかというと森脇(豊茂)や亀嵩(璃々須)といった友達のほうが好きですね。みんな大人ですし、琉実や那織を支えてあげている姿が良いなと思います。
ーーサブキャラクターたちも魅力的ですよね。
中西:純、琉実、那織の3人は思い悩むこともありますが、友達たちが支えてくれるから元気にやっているんだろうなと思います。
ーーキャストのお芝居をご覧になっていかがでしたか?
中西:めちゃめちゃぴったりなキャスティングでしたし、やっぱり双子のバランスですよね。経験豊富な内田さんと新人の後本さんの組み合わせがすごく良いなと思いました。
あと脇を固めるキャストさんたちもバッチリハマっていましたね。慈衣菜役の石原(夏織)さんはかわいい部分とギャルっぽい部分、押しの強さみたいな部分をすごい精度で演じられていて。正直、負けヒロインといえば石原さんの印象があったのでそこは流石だなと(笑)。亀嵩役の大野(柚布子)さんのお芝居も、「こんな腐女子いたなー」なんて思わされて(笑)。平成の感覚かもしれませんが、良い意味でオタク女子感が出ていました。
ーーキャラクターたちに親近感が湧いたのは、キャストのお芝居の力も大きそうですね。
中西:そうですね。キャストさんにキャラクターの魅力をブーストしてもらったんじゃないかなと思います。難しいセリフが多く、そこを上手く読みこなしていただいたという意味でも感謝しかないです。