檸檬の恋愛を見て感じた恋愛の難しさ――『負けヒロインが多すぎる!』連載 第5回:若山詩音さん(焼塩檸檬 役)インタビュー
檸檬の恋愛を見て感じた恋愛の難しさ。
――そしていよいよ第7話です。ここはほぼシリアスな展開なのですが、最初は、八奈見と温水のソファでの会話から始まります。
若山:ここで八奈ちゃんが「取っちゃえばいいんだよ」って言うんですが、私個人としてはすごく嬉しい言葉でした。もちろん檸檬ちゃんには、そういう気持ちがちょっとあったから、それに負い目を感じていたんですけど、八奈ちゃんが肯定してくれるようなことを言ってくれたことで、なんだかちょっと(私が)嬉しくなったんですよね。
――ここで、「朝雲さんって」と朝雲のことを悪く言おうとしたときに、「八奈見さんには他の人を悪く言ってほしくないっていうか…」と、温水が止めたんですけど、これはどう思いますか?
若山:八奈見さんに悪者になってほしくないということなのかもしれないし、単純に人の悪口を聞きたくなかったのかもしれないし…。どういう気持ちだったんだろう。でもそこで我慢できる八奈見さんは偉いなって思いました。
――ここは、“八奈見さんには”言ってほしくないというニュアンスな気がしたんですよね。
若山:八奈見さんに理想を押し付けているわけではないけど、自分の今見ている八奈見さんでいてほしいというところが出ていて、それはぬっくんのエゴだけども優しさでもあるのかなと思いました。でもこれ、結構怪しいラインの言葉を発してきましたよね。
――何だろう、言葉を借りると自分のエゴが出ちゃうところ。それを会話の中に組み込むところがすごいなと思っていて。
若山:しかも入れるところが絶妙なんですよね。マケインたちもそうだし、勝ちヒロインや、その子たちが好きな男の子たちもそうだけど、やっぱり人間だから見え隠れするいつもと違う一面がどのキャラクターにもあって、そこがチラッと見えたときに、「あっ」って思うんですよね。何か気付かされることが多いんです。
――このキャラはこういうこと言っちゃいそうだなって思うと、キャラクターではなくて人間っぽいな~と思うんですよね。
若山:人の性格って、球体くらい多面体だと思うんですが、マケインでは、今見えてる面の真反対をちらっと見せることで、急に人間らしく見えることが本当に多いなと思います。雨森たきび先生の中には、いったい何人の人がいるんだろうって思ってしまいます。
――八奈見も、あんなに普段はふざけているように見えるのに、恋愛に関することだと真面目なことを言いそうですしね。
若山:言いそうですよね。そのあたりは自分が向き合ってきたことだからこそ、言いたくなる本音だと思うので、ここの会話は、結構深い、本心に近いやり取りだったなと思います。
――そのあと温水が、夜中に走っている檸檬の元へ行くという流れでした。
若山:ここも、温水くんに行かせたほうがいいっていう八奈ちゃんの判断でしょうね。それは本当に正解だったと思います。檸檬ちゃんの気持ちとしては、光希くんと千早さんが別れてしまえば…っていう邪な気持ちが自分でも受け入れられないから、自分を元の位置に戻してほしかったと思うんです。その役割は、温水くんのほうが適任だったんだろうなと思います。
――しかも綺麗な檸檬の映像を見せてから、という演出もニクかったです。
若山:本当に、このシーンの檸檬ちゃんがとても美しかったです。負けている姿が美しくて、私も見ていて自然と涙がこぼれました。時々思うのですが、檸檬ちゃんは、本当にこんな思いをしなければいけないのかしらっていうことを、いっぱい経験している子だと思うんですよね。私には持っていない部分がたくさんあって、私と檸檬ちゃんは同一ではないんだなぁ、という気持ちになりました。
光希の相談を受けながら、かわいく見られたいと思ってしまい、もし二人(綾野と朝雲)が別れたらと考えてしまったことに対して、「ごめん、なさい」って謝るんですけど、檸檬ちゃんって、何か悪いことしたっけ?と私は思っちゃったんです。でも、そうやって謝るのが本当に檸檬ちゃんらしくて、すごく偉いなと思いました。
檸檬ちゃんの純粋さというのは、本当に根っこから綺麗だからこそ生まれてくるものであると思いますし、こういう優しいところが檸檬ちゃんの魅力なんだなと思ったので、光希くんとは結ばれなかったかもしれないけど、何かいいことがあってほしいと思いました。
――自分とは違う感情のあるキャラを演じるのが常だと思うんですけど、このシーンのアフレコはどんなものでしたか?
若山:このシーンはは檸檬ちゃんがずっと泣いていることもあって、梅田(修一朗)さんを別線にしていただくことが多かったんです。でも、私のアフレコ中の気持ちは、ほぼ檸檬ちゃんとリンクしていました。自分の考えとは一致はしませんが、言っていることや心の動きはすごく共感できるんです。自分が邪なことを考えてしまったことに対する後悔、その罪悪感からくる謝罪の涙というところは、自分にも経験があることだと思ったので、気持ちはスッと入っていけた気がします。なので、なんだかんだ檸檬ちゃんには深く共感していましたね。
――でも若山さん的には、「思うくらいいいじゃん」という気持ちもありつつ。
若山:女子会とかだったら、あんた悪くないよ!って言う人がほとんどだと思います。でも檸檬ちゃんには、それが許せなかったんだなぁと思うと、誠実な子だなと思います。
――そりゃ好きな人の前では、おしゃれもしますよね。
若山:そう思うんですけど、檸檬ちゃんは許せなかったんですよね。演じている時、この「ごめん、なさい」って涙を流し始めるちょっと前のところで、急に蘇ってきた場面があったんです。
それが、光希くんと一緒にいて、ちょっと好きでいてもらえたかもって思う瞬間でした。まだ希望のあった思い出が、一瞬のうちにフラッシュバックされてきたんです。それは何テイク録っても同じで、それを受けて罪悪感と謝罪の気持ちが自然と出てきたのかなと思います。
――本当に檸檬の気持ちになっていたんですね。
若山:そうですね。とてもリンクしていたと思います。だからこそ、なぜ檸檬ちゃんがそんな思いをしなければいけないのか、と思ってしまいました。ちなみにアフレコでは、私がバァーって泣いてズビズビしてしまったので、次の明るいシーンを録るために、一度止めてから、続きを収録していただきました。
――ここは見ていても、本当に心が揺さぶられました。
若山:私も本当に気合を入れて演じさせて頂いたシーンですし、とても大好きなシーンです。でも、これはもちろん、画のお芝居や音響効果、いろんな力があってのことだと思います。例えば、『マケイン』の劇伴が本当に素敵ですよね。 言葉でどう伝えていいかわからないですが、『マケイン』の雰囲気が一瞬で伝わってくるような、日常感のある音楽で、大好きです!
――物語的には、その後、朝雲さんと一緒に帰ることになりました。
若山:いったい何を話したんでしょうね。最後に仲良くなっていたようなので、すごいな檸檬ちゃん!って思いました。
――物語としては、最後に逃げずにちゃんと綾野と向き合って終わります。温水は相変わらず駆り出されているわけですが。
若山:ぬっくんは本当にフッ軽で優しいんですよね。夜の小学校の入口で、ずっと不法侵入をした口実を考えているぬっくんの「やっぱ猫だな」は本当にかわいいなと思いました。
――綾野とのやり取りはいかがでしたか?
若山:幼馴染で好き同士だった、という現実が辛いですよね。檸檬は「幸せだった」と言うんですけど、じゃあ告白するのが早かったら付き合えていたのか?と思ってしまいます。考えれば考えるほど、余計に悔しくなってきてしまいますね。取られた気持ちも強くなるし、すごくもどかしく思えてしまいます。
光希くんは、自分が檸檬ちゃんには見合わないと思って告白しなかったわけでしたし、自分の感情もよくわかっていなかったとのことでした。そしたら千早さんと出会って、これが人を好きということなんだとわかったと……。こんなことを言っていいかわからないんですけど、そこはちょっとよくわからなかったです(笑)。
千早さんに出会って、彼女を好きになって、初めて恋愛感情の形を知った。その気持ちはかつて檸檬ちゃんに抱いていた気持ちだった…ということなのでしょうが、これは私には理解しきれない部分でした。でも光希くんは光希くんで、おそらく正直に、誠実に生きてきたんだなと思うと、誰も不誠実ではないんだから、仕方なかったというところには落ち着きます。ただ、「光希、私のこと好きだったんだね」って言葉を、檸檬ちゃんが言うのか、とは思いました。
――ここは、綾野に言わせるわけにはいかなかったんでしょうね。
若山:それも檸檬の優しさなんでしょうね。今は千早さんと付き合っているからこそ、千早さんの方を向くべきだ、という考えなのかもしれません。自分から光希くんの恋心について言ったのは本当に優しいと思いますが、その言葉を檸檬ちゃんが言うのは、今思い返してみても、悲しいし辛いです。みんなが正直さを貫いた結果、うまくいかなかったという事実が本当に辛い。
――恋はタイミングだとよく言いますが、本当によく言ったものですよね。
若山:そうなんです。タイミングなんですよね。早く言わなかった檸檬ちゃんの敗北ということなので、誰も悪くはありません。
――ここまでずっと正直に誠実に来たんですけど、最後に二人だけの秘密があるわけですよね。
若山:あれはアフレコ現場でもざわついてて、手をつなぐのはOKなの?みたいに議論になっていました。賛否両論になっていたんですよ。
ただ、それに関しては、恋愛ごととはいえ、檸檬ちゃんと光希くんに非はあります。でも、千早さんと光希くんも、これは完璧に個人的な私見が入ってしまうんですけど、見せつけているところはゼロではなかったのかなと思うんです。そう思うと、小っちゃいお願い事を叶えてもらった。復讐とまではいかないけど、ちょっとだけズルいことをさせてもらったよ、ということなのかなと思います。
――「好きだよ」とも言っちゃってましたけどね。
若山:手を繋いだことに対して擁護はできないですが、誰も知らないのですから、なかったことになりますね。でも、ダメだよ!もう本当に恋愛って難しいです……。わからないです、ホントに(笑)。
――あははは(笑)。恋愛はわからないという結論になりましたね。
若山:はい。恋愛って、どうしてもエゴとエゴの重なりだから、誰かから見たら悪く見えるけど、別に誰も悪くないのかな?って思えてきました。
――温水は、終始ファインプレーをし続けていたように思うのですが、どうでしたか?
若山:檸檬ちゃんの件に関しては、本当にぬっくんの優しさが沁みることが多かったです。ぬっくんがいなかったら、檸檬ちゃんは心が壊れてしまっていたかもしれないな、と思います。だから最後の八奈見さんのお願いに関しては、本当にクレイジーだと思いました(笑)。八奈見さんにしかできない、ぬっくんの扱い方があるんだなと。見ているだけで楽しい2人です。
――それと、EDテーマの「CRAZY FOR YOU」はいかがでしたか?
若山:第5話の時点では、映像が何を表現しているのかあまりわかっていなかったんです。で、第6話を見て、あ!あのおとぎ話か!と思ったときに、大号泣していました。歌詞や映像の構成、描き込みやテイスト、そういうところまで考えて考えて考え抜いてこのEDにしたんだなと思いました。
本当にあのEDアニメーションが好きで、レモンティーを飲んでいるのもいいし、近未来みたいな感じになっているのも素敵だし、光希くんが差し出す手の感じも好きで、うわ~ってなりました。しかもちょっと切なくなるんです。この曲自体は失恋ソングではないんですけど、檸檬ちゃんが「この恋を叶えて」と歌うと失恋ソングになる、というのが、とても大好きです。
――カバーソングアルバムも9月25日に発売されるので、それも楽しみにしています。
若山:私は「最上級にかわいいの!」がどんなふうになっているのか楽しみで、3人の歌が合わさったらなんて楽しい曲になるんだろう、とワクワクしています。
――では最後に、今後の見どころを教えてください。
若山:第8話からは、ついにあの方々が登場します。原作を読んでいないとわからないかもしれないですが、あの方々が登場するんです。志喜屋夢子先輩から始まり、あの方々へと続きますよ。
そしてここで檸檬ちゃんの恋はいったん落ち着きまして、また次の段階に行きます。小鞠ちゃんのターンがくるんですが、シリアスなお話の中でも、今まで出会った人たちとの仲間感があるので、絶対に楽しんでいただけます!私が大好きなエピソードです。コメディも恋愛もノンストップなので、楽しみにしていてください。
[文・塚越淳一]
作品概要
あらすじ
キャスト
(C)雨森たきび/小学館/マケイン応援委員会