『ATRI -My Dear Moments-』連載第12回:春野杏さん(名波凜々花役)|「全部踏まえると、何か凄く青春っぽいなって思いました」
アニメで容姿が判明した洋子の存在は作品にとっての新たなエッセンスに
――凜々花のお芝居についてもお聞かせください。幼いながらも目標をしっかりもっていたり、頭が良かったりする一面があるように思いました。しっかりした部分と子供らしい部分の演じ分けは苦労されたところだったりするのでしょうか?
春野:あまり声のお芝居では変えないようにしていました。凜々花にとっては遊ぶことも勉強することも全部当然のことで、日々の中から自然と感じ取るものの中に勉強があるだけです。そんな中で漠然と将来を考えていたところに夏生と出会い、彼がアカデミーに行っていたことを知って一つの選択肢に気づけた。
多感な小学生が夏生みたいな人と出会って、思わず将来の目標を見つけるって、おそらく凄く自然な流れだと思うんです。だから子供と大人の二面性というよりも、自然体でそのままの凜々花になるようにしていました。
二面性自体は誰もが持っていて、それが明確に正反対かどうかがミソなのかなって思います。例えば夏生なら冷たい印象を与えるところがあるけれど、実はほっこり穏やかでみんなが嬉しいと自分も嬉しいみたいな青年だったりする。私もそうですし、そういうところは誰にでもあるから、凜々花だってきっと誰かに舌打ちしてしまう時がくる、みたいなところで演じています。
例えば天使と悪魔のふたつの人格を持ったキャラクターとかだったら、スイッチ的な何かが必要なのですが、今回のケースだと日常的な会話から、他のみなさんも自然な流れで演じられている方が多いような気がしています。
――余談の部分にはなるのですが、春野さんが本作で特に気に入っているキャラクターもお教えいただければと。
春野:凜々花です! 本人は守られる気がなさそうだからこそ守りたくなる感じがあって、素直で良いなって思います。暗い過去みたいなところとも向き合っていますし。
でも好きなので、みんな褒めるところたくさんあります。アトリは本当に可愛いし、赤尾さんも一緒にいると、ちゃんと考えている時と何も考えていない時の差がかなり激しくて本当にアトリみたいですね。
そういう素直な気持ちで動いていて、自分に近い存在だからこそ演じるのが難しかったりするのかなって何となく思いました。でも夏生の心を溶かせるのはそんなアトリだけで、彼女に影響されていく夏生も最高に可愛い。
竜司はみんなを守ろうとする男気があって、夏生と渡り合える冷静な視点を持っているけれど、同時に頭脳の部分で夏生に敵わないことが理解できているから対等でいられる。今の状況や自分自身を客観的に見られていてカッコいいです。
水菜萌は自分の気持ちは押し込めるんだけれど、何かあった時にはきちんとこうなんじゃないかなって言ってくれる。だからこそ何もいえなくなってしまうこともあるのですが。本当に優しい子だなって感じます。そんな彼女を髙橋さんの声質で、水菜萌がいうならそうだよなって思わせるお芝居をされているのが素敵だなって。
キャサリンに関してはみんなを引っ張っていく力を感じるといいますか。みなさん大好きなんですけど、私も日笠さんが大好きなんです。キャサリンのキャラクター性にそんな日笠さんの力強さが加わることで、パワフルでミステリアスでありつつ一番大人なキャラクターになったのかなと。きっとキャサリンがいなかったら締まらないパートがいっぱいあったと思います。
洋子は出演パートが違って、凜々花との絡み自体は少なかったのですが、流れてくる声を聴くとゲームにはなかったエッセンスのように思えました。『ATRI』の世界観からすると新しいといいますか。自然と竜司とセットになっていくのですが、竜司の方がタジタジになっているところが凄いなって思いましたね。
演じられているブリドカット セーラ 恵美さんと現場をご一緒したのは初めてでしたが、最初から加藤監督と話し合いをしながら進めていらっしゃったのが印象に残っています。やっぱり原作では容姿がわからなかったキャラクターだからこそ、こういう風なキャラクターならスッと入れるんじゃないか、など監督と一緒に考えられていたみたいでした。
それが物語を刺激して前に動かしてくれているというか、シリアスな場面が続いてもカラッとした印象を与えてくれているというか。水菜萌ちゃんと仲良くやれてるし、彼女とは違う優しさを持っているからこそ洋子が新しい発見をくれました。そして、トオルやミヨは凜々花の友達だし本当に全員好きです。
ゲームの発売時も「エンディングが悲しかった」と各所から聞いたくらい色々な人が遊んでくださっていました。凜々花は序盤の潤滑油という役割だから後半の本筋になる夏生とアトリの関係性には絡まないのですが、私自身がこの作品を好きでいます。現時点ではまだ最終回の収録前の取材なので、終わってしまうことは悲しいけれど楽しみな部分もあって。だからみんなが幸せになれればいいなって思います。
――最後に最終回に向けて、ファンのみなさんに注目してほしいところをお教えください。
春野:原作にはいくつかのエンディングがありましたが、存在感の増した洋子や夏生の祖母である八千草乃音子博士の話とか、色々な要素がギュッと詰まっていて。だからこそ先の展開が読めない部分が生まれているのかなと思っています。とはいえ、結末について心配はないはずです。
ここまで来たら凜々花なら、何か目標を見つけてそれに向かって頑張っていくんじゃないかなって私は思っています。清々しくてそれでいて甘酸っぱくて切なさもあり、でも美しいみたいな夏の終わりにピッタリな最終回になるんじゃないかなって。きっと後味が悪いことにはならないので、みなさんがこの作品でいい秋を迎えられることを心から祈っています。
ゲームから知ってくれている方は「こういう展開になるのか」と思っただろうし、アニメから入った方はゲームではどうだったのかが気になると思います。私としてもゲームとアニメに大きな相違があるとは思っていなくて、一種のifとして動いている気がしています。
『ATRI』の世界観をゲームからそのまま引き継いでブラッシュアップして、アニメならではの活力とか美しさを際立たせているといいますか。この作品をアニメもゲームも末永く愛してくれたら嬉しいなって思います。
[文・胃の上心臓]
作品概要
あらすじ
キャスト
(C)ATRI ANIME PROJECT