『ATRI -My Dear Moments-』連載第14回:小野賢章さん、赤尾ひかるさん、髙橋ミナミさん、日笠陽子さんによるメインキャスト座談会|各キャラクターの視点から見る、このひと夏の物語の結末とは!?
最後の最後まで感情にフォーカスした物語
――夏生はアトリとの出会いから徐々に明るくなり、少年らしい笑顔を見せるようになりました。ここまでの夏生についてはいかがでしょうか?
小野:最初は周囲に振り回される状態で、自分のやりたいことは出来ないし、割と諦めに近い心境だったと思っています。実際には諦めてはいないので、やれることがなかったと言うほうが正しいかもしれません。やりたいことはあるけれど、それができるビジョンを思い描けないというか。
そういうフラストレーションを抱えた状態から物語が始まりましたが、海でみつけたヒューマノイドのアトリが夏生の閉ざした心に土足でズカズカ入ってくるおかげで、段々と視界が開けたように思います。
アトリがいたからこそ学校に顔を出してみるかと心が動いたし、凜々花が電気がつかない暗い夜でも本を読んで勉強を頑張っていることや、自分より小さい子が一生懸命にやりたいことをやっていることがわかった。そんな現実を知り、自分にもできることがあるんじゃないかとか、何とかこの生活をより良いものにしていきたいとか、気持ちに火がついたんですよね。
夏生はアトリとの出会い、再会をきっかけに変わっていったと思いますし、その段階から恥ずかしがったりはしていたので感じるものはあったのかなとも思っています。アトリのことをモノローグで観察しているシーンが結構ありましたし、最初から気になる存在ではあったんだろうなって。
でも先ほど日笠さんがおっしゃったように、夏生も変化したというより取り戻したという表現の方が近いかもしれません。第1話の冒頭あたりで潜水艇の舷窓から小さい頃の夏生と水菜萌が映るシーンがあるのですが、その時の夏生は凄く楽しそうに水菜萌と話しているんです。あの状態にどんどん戻っていったという印象が強いです。
やっぱり笑顔が見られると嬉しいですよね。夏生が純粋に笑うシーンは序盤にはなかったので、そういうシーンが終盤にかけて増えていったから、演じる自分としても良かったねって思えました。
――本当に夏生の笑顔は少年のようで可愛さすら感じさせます。
小野:そこまで持っていくにはどういう心境で演じたらいいのかと色々考えましたし、最初に彼が笑顔を見せるシーンでは「あ、笑った!?」ってちょっと戸惑いました。
髙橋:ナツくんはアトリちゃんと出会えて本当に良かったですよね。思春期大爆発みたいな時期もあったし、ナツくんのことを元から知っている人には心を開いてくれなかったんじゃないかとも思います。一応ナツくんとアトリちゃんは過去に会ってはいるけれども、ナツくんにとって新鮮な存在が心に足を踏み入れてきたからこそ無理やりこじ開けることができたのかなとか。
小野:気を遣われている感覚はあったよ。水菜萌も夏生に対してもう少しガツガツできていたら、物語も違っていたのかもしれない。やっぱり無知って最強だよね……とは思いますが。
髙橋:マジで最強だなって思います。高性能だった!
一同:(笑)。
日笠:私たちが知るロボットやAIって感情がなくて無機質なイメージがありますが、心を閉ざした夏生と感情豊かなアトリとっていう立ち位置が凄く不思議な対比に感じました。そんなヒューマノイドのアトリから夏生が感情をもらっていく、取り戻していくっていう流れが面白い部分だなって思っていました。
赤尾:塞ぎこんでいた夏生さんはアトリと出会ってみんなと親交を深めて、前に進める素直さを取り戻していきました。その素直さを紐解いていくと、祖母の乃音子に対しての負けず嫌いなところとかも見えてきたり。本当に男の子らしいなって。
私としても夏生さんを可愛いなって思うシーンは多くて、男の子ならではの竜司との関係性はアトリと水菜萌では生まれない雰囲気がありましたし、そうやって色々な人と関わって変わっていく夏生さんを見て愛らしく思っていました。
――最後にアトリについて。彼女の感情の有無だったり、八千草乃音子博士からの命令は物語の重要なポイントでした。振り返ってみていかがですか?
赤尾:アトリが自分の中にある葛藤に気づくまでは、システムとしての愛情でマスターを喜ばせたいという認識が大きかったです。それ以外の部分で誰かを喜ばせたいと思うのは何故なのかとか、夏生さんへの想いや詩菜さまとの過去だったり、アトリは自分自身でこれは何なのだろうと判断に迷っているシーンが結構ありました。
詩菜さまとの過去は、アニメになったことでわかりやすくなりましたよね。台本をいただいてより深く知ることができました。そこから人と人との関わりや、どうやって本当の愛情を見つけるのかとか、システムではない愛って何だろうとか色々なことを考えました。
人間だって自分の心がどこにあるのかなんてわからないじゃないですか。アトリも心がどこにあるのかもわからない。詩菜さまと出会った頃のシーンではそれこそロボットのような喋り方をしていたので、そこからそのきっかけのひとつひとつを心に留めて、ただ記録するだけでなく学んでいったのかなと想像しました。
私たちの身近なAIからは想像もつかないくらいアトリが高性能だからという面もありますが、いつからアトリに心が芽生えたのか、今演じているシーンのアトリはどんな心境なのかはしっかり考えながら演じていましたね。
加藤監督ともこのシーンのアトリの台詞は感情を理解している前提なのかどうかとか、自分では気づいていないけれど愛を伝えているだとか、そういう細かい部分までお話をさせていただいて、ひとつひとつ丁寧に演じました。それもあってなのか、アトリは夏生さんや詩菜さまや乃音子によって生まれて、心という大切なものをもらった印象があるんです。
――アトリの心というと、第10話で彼女が涙を流すシーンが印象に残る方も多そうです。収録時の裏話などをいただけますか?
赤尾:小野さんとふたりでの収録でしたね。
小野:確か「Anime Japan2024」のステージイベント後にスタジオで収録したよね。
赤尾:演じる時は大変さよりも夏生さんに寄り添いたい気持ちや、今までアトリ自身が悲しいことだと思っていなかった、これは自分に組み込まれているものだと思っていたもの全てがようやく解放されたので、良かったねっていう気持ちでいっぱいでした。詩菜さまとの掛け合いも夏生さんとの掛け合いも寄り添えたかなと思っています。
――他のみなさんにもぜひアトリについて伺いたいです。
髙橋:止まってしまった島の時間を動かして、最終回でも私たちを一歩先に進ませてくれたなって。最後までアトリちゃんはそういう姿を見せてくれましたし、ナツくんだけじゃなくてみんなもアトリちゃんのおかげできっと何かを取り戻せたはずです。
日笠:アトリはヒューマノイドで、そんな彼女が自分の感情を自覚することは大きなターニングポイントでした。人間は生きていく内に欲に負けたりお金に目がくらんだり、色々なものと戦う内に無垢なものが隠れていってしまう。けれどアトリにはそういうものがなくて、人間が一番目指さなきゃいけないものをアトリは持っていたのかもしれないと思いました。
小野:僕は日笠さんとは逆に、アトリのようなヒューマノイドのほうが人間らしい行動をするのは何故なのかと考えてしまって、そういう一面からむしろ人間とは別の存在なんじゃないかと感じてしまうことがありました。
何か「人間らしい人間はこういう感じで話す」みたいなのを見せられているような感覚があったんです。人間はやっぱり複雑だから、あまり感情を出さない人もいれば出してくる人もいる。序盤はそういう人間らしさっていうものを模倣しているように見えていたんです。
そこから話数を重ねるにつれて、無表情になったり悩んで元気がなくなったりする一面が見えてきた。彼女のそういう一面が徐々に見えてきたからこそ、段々と人間っぽくなっていったなって思っています。
――それぞれの視点から本作の物語やキャラクターについて語っていただきありがとうございました。最後に代表して赤尾さんから最終回の見どころをいただければと思います。
赤尾:この沈みゆく世界もいつ終わるかわからない。そこをどう描き切るのかも注目ですし、夏生さんは乃音子の言葉と最後の最後まで向き合います。振り返ってみると本当に感情のぶつかりあいというか、感情にフォーカスしていました。そういう部分を最後までみなさんと共感したり共有したりできたら嬉しいです。
[文・胃の上心臓]
作品概要
あらすじ
キャスト
(C)ATRI ANIME PROJECT