映画『グリンチ』宮野真守さんインタビュー|グリンチの行いが自分にも返ってくる?「視野が広がる凄い映画」の理由とは
2018年12月14日、イルミネーション・エンターテインメントが贈る最新アニメ『グリンチ』が全国で公開される。
日本語版吹き替えキャストには、大泉洋さんや杏さん、ロバートの秋山竜次さん、横溝菜帆さんが名を連ねた。『ロラックスおじさんの秘密の種』以降、イルミネーション・エンターテインメント作品に全シリーズに出演している宮野真守さんが務めるのは「ナレーター」という大役だ。
宮野さんは「ナレーター」というポジションを通じて、『グリンチ』という作品をどう彩ったのか。彼の胸中に迫る。
ナレーションの言葉遊び、リズム感に注目
――今回、『グリンチ』のオファーが届いた際、どう感じましたか?
宮野真守さん(以下、宮野):実写化もされたあの『グリンチ(2000年公開 主演・ジムキャリー 日本語吹き替え・山寺宏一さん)』が今回アニメ化されるということに驚きましたね。
原作は、アメリカでは誰もが知る絵本ということで、僕も今回を機に知識を深めていきました。
――一見すると子供向けなんですけど、とても中身が詰まっているお話でしたよね。
宮野:そうですね。流石、絵本! という感じ。多くのお父さんやお母さんが、子供たちに語り継ぎたくなるエッセンスがふんだんに含まれていて。いわゆる“教訓”みたいなものが。
物語の芯がしっかりとありつつもコミカルに魅せていく演出は、非常に面白い。僕自身、台本も夢中で読みましたし、映像にもかなりに笑わせてもらいました(笑)。
楽しい時間が流れているんだけど、心にはグッと残るものがある。『グリンチ』はそんなお話です。
――宮野さんは今回、キャラクターではなく「ナレーター」という配役でした。
宮野:僕は「ナレーター」の経験は多くないんですよ。なので、どうアプローチしようか…という緊張感はありましたね。
ただ、そもそもドクター・スースの原作『いじわるグリンチのクリスマス』もグリンチに寄り添うような形で描かれているそうで。
実際、映画でも物語を説明するナレーションではなく、それぞれの登場人物、特にグリンチの心に寄り添ったナレーションになっているんです。ともすれば、『グリンチ』の世界を見守っている存在な語り口なんです。
なので、僕もキャラクターの感情に寄り添うような語りで「ナレーター」を務めました。
――『グリンチ』を拝見して宮野さんのナレーションについて2つ心に残ったことがあったんです。まずは、仰っていた通り温かみのある声。次に途中から言葉遊びというか韻を踏んでいるのが多かったなと。
宮野:韻については、実は全体的にです。『グリンチ』という映画はドクター・スースが描いた原作がベースになっていて、言葉遊びやリズム感、韻の踏み方だったりがとても心地よく語られています。なので、今回の台本も、そこを意識した翻訳がされていて。
事前に演出プランをお伺いした時にも言葉遊びやリズム感、韻の踏み方を大切にするものになっていました。
日本では日本語らしさを大切にする。他の国々ではそれぞれの国に寄り添ったリズム感を大切にする。じゃあ、僕はどうアプローチしていけばいいのかな? と考えていたんです。
――なるほど。
宮野:本編を収録する前のボイステストがあったんですが、日本語の良さ、侘び寂びを伝えるために、落語の寿限無(じゅげむ※)を読んで欲しいというオーダーが。ここで日本語の語感や語呂合わせなど、言葉遊びだったりの雰囲気を本国に送ってから本編の収録になったんです。
実際の収録では、日本人のディレクターの方と日本語の良さや韻の踏み方、語り口などの塩梅を決めていきました。かなり細かく細かく考えながら収録しましたね。
※寿限無
落語の代表作。生まれた息子に縁起のいい名前をつけるため、寺の坊主に名付けをお願いしたところ、めでたい言葉をつけすぎてとても長い名前になってしまった、というお話。名前全文はぜひ検索してみてほしい。
――物語冒頭からいつも以上に、宮野さんの声が耳に、心にスッと馴染む印象がありました。僕は途中のシーンから気づいたのですが、冒頭から言葉遊びは始まっていたんですね。
宮野:そうなんです。言葉遊びはスタートの時点からはじまっています。翻訳にもこだわりが詰まっているなぁと唸りましたね。
言葉遊びの軸はそのままに、日本語ならではのオリジナリティを追求する必要がある。僕もその翻訳に応えなければと思いじっくりと読ませていただきました。
人は誰しもがグリンチを持っている
――宮野さんのお気に入りのシーンはどこでしょうか。
宮野:グリンチが登場からすっごい捻くれてるんですよ(笑)。見ていると「何だ! この主人公は!?」って思っちゃうんじゃないかな。
コミカルに描かれているから、楽しく見られる空気感ではあるんですけど……。まぁ、メチャクチャなことするんですよ(笑)。ここは映画を見たら思わずクスっと来るシーンだと思います。
――確かにグリンチは本当に作中でメチャクチャなことをしていましたよね(笑)。
宮野:本当にそう。メチャクチャなことをするグリンチ。そんな中で安心させてくれるのが愛犬のマックスなんです。健気にグリンチに対してアプローチする動きがとても可愛いんですよ。
忠実なマックスの姿に心を打たれる方も多いと思います。ただ、そんなマックスに時折優しくするグリンチを見るとホッコリしますよね。
『グリンチ』という映画には心暖まる瞬間がたくさん散りばめられていると僕は思っています。
――確かに。グリンチとマックスだけじゃなくてフレッドを含めた展開には、心暖まるシーンが多かった気がします。ちなみに、グリンチって結構、年齢を重ねているんですよね。
宮野:53年間捻くれ続けてますからね(笑)。
――(笑)。一方で、捻くれ続けたグリンチには、クライマックスでは大きな見せ場もあります。
宮野:捻くれ者で登場して「何だ!」と思うこともたくさんあるんですけど、それにも理由があるんですよね。どうしてそんな性格になってしまったのか? という。
グリンチがそういった性格になってしまった背景にも触れていく物語ですし、ともすれば人は誰しもがグリンチを持っているんじゃないかな。
多かれ少なかれ、グリンチの姿から自分を省みる瞬間があると思うんです。今、自分がとってしまった行動がもしかしたら、誰かにとってのグリンチになってしまっているのかもしれない。
自分の捻くれた部分や素直になれない部分。どうしたらいいか分からなくて、もどかしい気持ちがグリンチの姿を通して見えてくるというか。
また、クライマックスでは雪解けのシーンが描かれていきます。そこで、しっかりと大事なものを受け取っていただけるんじゃないかなと。この作品から色々なことを教わることができるそんな“教訓”がたくさん詰まっていると思いますね。
とても楽しく心に響く作品
――最後に宮野さんが作品の見どころについて教えて下さい。
宮野:今お話した雪解けですが、キッカケがないとそういった展開にはならないわけです。その鍵を握っているのが、シンディ・ルーなんですね。とても可愛らしい女の子。そこ娘がいてくれたからこそ、グリンチは変化していきます。
先程、自分を省みるキッカケになると言いましたけど、『グリンチ』という作品を通じて、ご自身の周囲に目を向ける機会にもなるかもしれませんね。自分にとってのシンディ・ルーは誰なのかなって。
自分で話してて、視野が広がる凄い映画だなって改めて思いました(笑)。ぜひ、多くの方に観て欲しいですね。
エンディングの映像も大変素晴らしいので、最後まで目を離さずにお楽しみ下さい!
――ありがとうございました!
[取材・文/川野優希]
作品情報
映画『グリンチ』
2018年12月14日(金)、日本公開決定!
配給:東宝東和
【STORY】
つぶらな瞳が愛らしい超キュートな幼少期のグリンチ(ベビーグリンチ)から、すっかりひねくれてしまった大人の「グリンチ」はというと・・・。洞窟の中で暮らし、愛犬マックスの献身的な愛にもぶっきらぼうに対応し、山麓の村人達にいじわるをして楽しむ超ひねくれ者に。
とにかく不機嫌で孤独なグリンチはやがて、村中のみんなが大好きな”クリスマス”を盗むという、とんでもない計画を立ててしまう...小さい頃はあんなに可愛かったのに、大人になるまでに一体何があったのか……!? そしてグリンチのとんでもない計画はどうなるのか……!?
【スタッフ】
プロデューサー:クリス・メレダンドリ
監督:Yarrow Cheney, Scott Mosier
声の出演:ベネディクト・カンバーバッチ
本語吹替え:大泉洋 杏 秋山竜次(ロバート) 横溝菜帆 宮野真守