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【内海賢二 彼が生きた時代:連載第5回】野沢雅子インタビュー

【内海賢二 彼が生きた時代:連載第5回】野沢雅子さんインタビュー|「あんた、なんでそんな急いでいったの」って言ってあげたいぐらいよ

声優という職業が認められるまで

ーー野沢さんの時代だと声をあてる仕事自体が珍しかったと思うのですが、そういった技術はどのように学んでいったのでしょうか?

野沢:改めて学ぶってことをしたことはないの。元々私がいたような小さい劇団だと、お金を稼ぐのって大変でね。経営を支えるためになんでもやらないといけなかった。それでテレビの仕事をいくらかやってたんだけど、あるとき洋画の吹き替えをやってみようってことになったの。

声の近い人を集めてたみたいなんだけど、少年役が大変だったみたいでね。実際に男の子を使えれば早いんだけど、生本番だと子供を使うわけにもいかないし。それで女性の声帯なら近いんじゃないかってことになって、当時の劇団とかプロダクションから人を集めてオーディションをすることになった中に私もいたの。びっくりしたわよね。その場には大人の女の人しかいないのに、いきなり「この少年の役をやってもらいます」なんて言われたんだから。

私なりに少年になりきってやってみたら、幸か不幸かそれが認められたみたいでオーディションに合格できたの。テレビで洋画を流すのもウケたみたいでね。洋画を見るなら映画館に行くしかなかったし、日本語じゃなかったから字幕を追って理解するのも大変だったし。テレビで見られて、しかも日本語なんだから嬉しいに決まってるわよね。

だから人気になって、それからはいろんな洋画をテレビで流すようになって。少年役も大体どこかにあるから、慣れてるってことで私にお話がくることが多かった。ありがたいことだったけど、少年役をやる女性なんて私が最初だったから大変でしたよね。教えてくれる人なんていなかったから。手探りでやっているうちに少しずつ声の仕事が増えていって、いつの間にか今では声優業界って呼ばれる世界に来ていたの。

ーー野沢さんが知っている以前の声優業界は現在とはかなり違いがあると思うのですが、その変化に対してどう感じていますか?

野沢:役者がリラックスできる環境が整ってて、私はいいことだなって思ってます。精神的にもそうだけど、金銭面でもそう。頂けるギャラの最低ラインが決まってるでしょ。それより下がることはないわけだからさ。

ーー以前、声優の待遇改善を求めるデモ活動があったんですよね。どう言った取り組みだったんでしょうか?

野沢:誰が言い出したのかは覚えてないんだけど、当時はギャラが本当に安かったんですよ。顔出しのドラマをやってる人がくるともっと貰えるから、不満が溜まるのも仕方ないことだった。私はドラマもやっていたから最低でももう少しマシだったけど、それでも悪かった。

だからね、デモをしてギャラを上げようってことになって。今考えたらえらいことをしたものよね。大変だったのよ。朝から公園に集まって「ギャラを上げろ!」って言いながら銀座のほうまでずっと歩いたりして。

考えてみれば、制作会社の方は気の毒だったかもね。会社の前で社長の名前を叫んで「出てこい!」なんてやったりして。それで却って使ってもらえなくなったらどうするのって感じでしょう。やりすぎて名前が残っちゃったらそれこそ最悪だし。それでもみんな必死だったからね。やれることはやろうって空気だった。

ーーデモ以外でも制作会社のほうに積極的に訴えることはしていたんですか?

野沢:当時は30分のアニメを録るにしても一日近くかかっちゃうことも珍しくなかったので。頑張れば短くできるけど、みんなそれは暗黙の了解でやらなかった。大変なことをやっているんだと制作会社にもわかってもらうために、時間をかけてかけて録るんですよ。

そんなことをしながら少しずつ訴えてたけど、お互いにそんな気持ちで揉めたままじゃいい作品なんて作れないじゃない。こんなことして意味があるのかなって心配していたんだけど、あるとき制作会社のほうから話し合いをしてもいいって言ってきたの。

向こうの社長さんとは付き合いもあったから私も呼ばれたんだけど、その話し合いがまた上手くいかなくて。当時だと、あちらは私たちを使ってやってるって立場だから、いくら訴えたって響かないんですよね。こっちの態度が気に入らないっていうのもあっただろうし。

それでも頑張って交渉して、私としては「ただお金が欲しいだけじゃなくて、お互い気持ちよく仕事ができる環境になればもっといい作品が作れるようになるはずだ」と訴え続けた。そのうち気持ちが通じたのか、制作会社のほうが「いつまでもこうしてたって埒があかないから歩み寄ろう」と言ってきたの。

私たちは「30分の番組に出るならこれぐらい欲しい」、向こうは「これぐらいなら払える」という感じで話し合って、意見をすり合わせてすり合わせて決まったのが今のギャラの最低ラインなの。そこから先は、どれだけ声優を続けていられるかで変わってくるのね。

ーー環境が変わって野沢さん自身も納得がいっていますか?

野沢:声優ってただ声を絵に乗せればいいのではなくて、絵に生命を入れるわけだからね。収録のときだってアニメは完成していなくて線画の状態のことが多いし、そういうのに少しずつ慣れていかなきゃいけないの。

10年やってる人はそれだけの中身のある芝居をできるからね。どんなに上手いって言われてる新人の子でも、中堅やベテランって言われてる方と比べたら同じ芝居でも中身がやっぱり違ってくるの。

活動すればするだけ、その人に見合った金額が貰える仕組みを作れたわけだから、やってきたことは無駄じゃなかったし、上手くいったんじゃないかなとは思ってますね。

ーー野沢さんの、声優としての大事にしている覚悟や、誇りにしていることってどんものなのでしょう?

野沢:私はね、舞台が大好きだったから、最初は声優っていうお仕事があまり好きじゃなかったんですよ。洋画の吹き替えなんかは特にそうね。向こうの俳優さんがやっている芝居を忠実にやらなくちゃいけないわけで、それって自分の演技とは違うものだから。「自分だったらこういうふうに演じたい」と思うことがあってもそれをやらしてもらえないジレンマがあった。

それに声優って呼ばれるのも苦手だった。私としてはひとりの役者として一生懸命に演じているのに声だけを褒められている気がしてね。

ーー考え方が変わったきっかけはあったんですか?

野沢:人の芝居をしているとね、自分の中にも新しい芝居が増えていくのよ。自分にはなかった考え方を教えてもらえる機会なんだと思ったら、こういう仕事もいいなって思えてきたの。新しい芝居を作れたら、自分の別の仕事にも活かすことができるわけだからね。

それに、一生懸命やっていたら監督やプロデューサーが喜んでくれるのも嬉しかった。自分のやっていることを認められたんだと思えたし、それまで考えていなかった人とも繋がることができたしね。今では大好きな仕事だと胸を張って言えますよ。

ーー声優っていうお仕事を続けていくにあたって、意識していることなどはありますか?

野沢:まずは健康第一。風邪なんて引いて声がガラガラになったら声優だなんて言っていられないからね。それから、普段からウォッチングをするようにしなさいってよく教えてるの。

電車とかバスとか人がいるところがオススメなんだけど、とにかくその場にいる人を観察するの。肩がぶつかったりするときに「痛い」ってなる人もいるし、「痛っ」てなる人もいるし、なにも言わないでただぶつかったところを見る人もいるし。「痛い」だけでも表現の仕方としていろんな方法があるのよ。

そういう方法をたくさん知っていれば、自分がアニメでやるときにも表現の仕方に幅が出るでしょ。「その演技面白いね」とプロデューサーやディレクターに言ってもらえたら最高に嬉しいし、それが次の仕事に繋がっていくかもしれないからね。

ーー野沢さんが声優をやっていて喜びを感じる瞬間というのはどんなときなんでしょうか?

野沢:アニメってね、どんなに辛くて落ち込んだりしているときでも、笑顔にしてくれる楽しい力があると思ってるの。声優として、その手助けをしてあげられたら本望よね。一生懸命やった演技で「あの役とてもよかったよ」とか、「面白かったよ」とか言ってもらえたら嬉しいじゃない。だからこれからも私は、自分なりに考えながら思いっきり好きに続けていけたらなって思っています。

[取材/武田結花 編集/石橋悠 構成/原直輝]

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映画『その声のあなたへ』作品情報

ストーリー

アニメイトタイムズで働く若手ライターの結花は、取材中に声優・内海賢二の存在を知る。彼に興味を持った結花は、取材企画を立ち上げて彼の声優仲間らへ取材を始める。この取材を通して彼女は、内海賢二という声優の人柄だけでなく、かつての声優業界、声優という仕事が今のような人気職業になるまでの歴史を知っていく。

スタッフ&キャスト

配給:ナカチカ、ティ・ジョイ
監督・脚本:榊原有佑
制作:and pictures
企画:株式会社CURIOUSCOPE

逢田梨香子、伊藤昌弘、内海賢太郎、勝杏里、かないみか、神谷明、柴田秀勝、杉山里穂、谷山紀章、戸田恵子、浪川大輔、野沢雅子、野村道子、羽佐間道夫、水樹奈々、三間雅文、山寺宏一、和氣あず未 (五十音順)

公式HP:sonokoe.com
公式Twitter:@SonoKoe_0930

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