『サマータイムレンダ』花江夏樹さんが語る、網代慎平を演じきった今の心境|「今まででいちばん大変な作品だったかもしれません。その分、思い入れや達成感があります」
僕らの夏はまだ終わらない――。2022年4月14日(木)よりTV放送/配信してきたTVアニメ『サマータイムレンダ』が9月、ついに完結。10月22日(土)にはTVアニメ『サマータイムレンダ』スペシャルイベントが招待制で開催された。
イベントの中で、11月15日より各サービスでアニメが順次配信開始されることを発表。また、1月にリリースされるMAGES.制作によるNintendo Switch/PlayStation 4ソフト『サマータイムレンダ Another Horizon』の新情報も続々と届いている。原作もアニメも完結はしたものの、実写化を控える中、『サマレン』の世界に浸れる機会が待っているのは嬉しい限りだ。
アニメイトタイムズでは前述のスペシャルイベントを取材(レポートは後日公開予定)。スペシャルイベント直後に行われた、網代慎平役 花江夏樹さんのインタビューをお届けする。
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初のイベントを終えて
――さきほど行われた『サマータイムレンダ』スペシャルイベントで花江さんは“澪派”ということが発覚しました(笑)。潮役・永瀬アンナさんがショックを受けられていた様子でしたね。
網代慎平役 花江夏樹さん(以下、花江):あははは。個人的には、という感じですけどね(笑)。もちろん潮も好きですよ。
――(笑)。コロナ禍のため、ファンの方と直接お会いできたのは今回がはじめてとなりました。まずはイベントのご感想からうかがえればと思います。
花江:初のイベントだったのでうれしかったですね。あれだけキャストが集まるのだったら、もうちょっと大きい会場でも良かったんじゃないかと思うくらい贅沢なイベントでした。しかも無料。太っ腹ですね(笑)。僕自身、キャストさんたちからお話を聞く機会はあまりなかったので楽しかったです。
――今回のイベント内で、これまでディズニープラスにて独占配信となっていましたが、11月15日(火)0:00以降に各サービスにて順次配信開始されることが発表になりました。さらに気軽に、『サマレン』の世界を楽しむことができますね。
花江:サブスク解禁は大きいですよね。最終話まで配信されている状態なので一気に見られる。ぜひ楽しんでほしいなと思っています。
――放送中、周りの方からも反響が大きかったのではないでしょうか。
花江:そうですね。「毎週見てる」っていう連絡が来ましたね。
第14話の体育館での演説シーンは「特に印象深い」
――放送を終えた今のお気持ちはいかがですか?
花江:録っているときは大変で。ゴールが全然見えないなと思いながら毎週がんばっていました。方言に慣れてきて、時間が掛からなくなってきて「もっとできるかも」と思ったところで終わってしまった感じだったんですよね。だから寂しい気持ちもあります。その分、達成感がありました。
――慎平は和歌山弁でありながらも標準語も混ざっていますよね。その棲み分けはどうされていたのでしょうか。
花江:少し東京に居たということもあって「たまに出てしまう」というか。あとモノローグは全部標準語です。俯瞰している場面、通常の状態は方言で、っていう基準でした。モノローグの中でも「気持ちが溢れてしまうところは方言にしましょう」と。その塩梅は原作者の田中靖規先生と、方言指導のカイホリ(ショータ)さんの間で打ち合わせがあって決まる感じです。
――すごくナチュラルに聞こえてきましたが、和歌山弁は難しい印象があります。
花江:そうですね。コテコテという感じではないので。THE方言という感じであれば、抑揚・イントネーションの変化を分かりやすくつけられたかと思うんですが、絶妙なニュアンスだったので、そこが難しかったです。標準語でも言えるような、フラットな雰囲気もあったので。
――どのあたりの言葉が難しいものなのでしょうか。
花江:一人称が難しかったんですよね。「俺が」「お前」とか。普通に聞こえて、ちょっと違うってニュアンスが多かったんです。ちょっと上から入る感じ。正直そこまで変わらないような気がするんですけど、地元の人からすると「違いますね」って感じらしくて。一応法則性はあるにはあるんですけど、ふとした時に例外がくるんですよね。同じ言葉でも文章によって変わります。実際ガイドを聞くと全然違うイントネーションになる。
――イベントでアフレコのお話をされていましたが、外画の吹き替えのような録り方をされていたとか。
花江:そうですね。台本に印を書いただけだと、セリフ量が多いと思い出せないことがあって。耳から返ってきたほうがやりやすいなと。それでガイドの先生からはまとめて慎平のセリフが送られてくるので、タイミングを合わせて自分で音声を編集して、一個の音源にして。「これを当日のVに入れてください」とお願いして、それを聞きながらやっていました。その作業も大変なんですよね(笑)。
――それはそうですよね。
花江:でもその状態のほうがチェックするほうも楽だと思うんですよ。返して聞かないとしても、自分のはじまるシーンになったらそのガイドが流れるからそこで確認できるじゃないですか。だから今後、そのやり方を採用していただけたら、(演者に)喜ばれると思います(笑)。映像に音声を貼るほうが早いです。それでだいぶ楽になりました。ただ、大変だと思います。
――実際どれくらいの準備時間がかかるものなんですか?
花江:それこそイベントでお話した、14話の演説のところは自力でセリフを覚えたんです。でも1話は特に時間が掛かってチェックだけで6時間くらい掛かりました。まだ慣れていなかったこともあって。そこからペースアップしていきました。
――6時間! 今お話にあった第14話“to be/not to be”はイベントでその思い入れをお話されていましたが、視聴者にとっても印象深い回だったと思います。
花江:これから戦っていくぞ、っていう慎平の意思表明があったので。みんなにこれまで伝えられなかった思いを、ストレートに、少し回りくどく伝えている。僕自身、印象的だなと思っていました。
――たどたどしさが素で出ているところが良い、と田中先生がおっしゃっていたとか。
花江:慎平が東京に少しいたというとこと、人間としての成長途中というところに助けられたなと思っています。潮のような感じで慎平のセリフ量だったら大変だったかなと。
――和歌山出身の(澪役の)白砂沙帆さん、(雁切真砂人役の)小西克幸さん、さらに関西組がいるのは心強かったですか?
花江:そうですね。時々教えてもらっていました。カイホリさんも役者ではあるんですけど、カイホリさんのトーンになってしまうんですよね。女性キャラだと自分のトーンに直さなきゃいけないのですが「つられてしまう」ということがあったそうで。そうした時に、(ハイネ役の)釘宮理恵さんが教えていました。釘宮さんの教えかたがすごく上手で「さすがだな」と。
「もう二度とできないかもしれない」
――アニメ収録を終えて一週間後にはゲームの収録があったとのことでしたが、慎平を演じきった今のお気持ちはいかがでしょう?
花江:もう二度とできないというくらい頑張ったなと。例えば2期を続けていくとなったら「ああ、大変だなあ」と思うかもしれないです(笑)。それだけやりきりました。その分、思い入れや達成感はあります。だから「やってよかったな」と。
――花江さんほどのキャリアの人がそう思うってすごいですね。
花江:そういう意味では、今まででいちばん大変だったかもしれません。方言がない作品であれば、長くても1時間くらいでチェックは終わるんです。本番にいくまでの演技じゃない部分で掛かる時間の大変さがあって。さらに現場では方言の修正があるので、演技の部分以外でも体力を使うなあという印象です。
――潮役 永瀬アンナさん、澪役・白砂沙帆さんにインタビューさせていただいた際に花江さんが丁寧に教えてくださってというお話をうかがいました。別の現場のインタビューでも「花江さんが残ってくれて……」というお話をうかがったことがあって。花江さん自身も先輩たちに教えてもらったことが大きかったからこそ、後輩たちへのアドバイスやサポートを積極的にされているのでしょうか?
花江:いや~そんなにできてないような気もするんですけども(笑)。でも僕自身、先輩からいろいろなことを教えてもらってきたんです。だから(後輩に教えていくことは)業界全体の成長としても大事なことだと思っています。できる限りのことはしたいなと、きっとみんな考えているんじゃないかなと。それで作品が良くなったら、自分にも返ってきますし。
――今回のイベントもそうでしたが、これだけ原作の先生が深くアニメに関わっているというのも珍しいスタイルのような気がします。
花江:そうですね。アニメの原作者の先生が来てくれるということはあっても、毎回立ち会ってくださるというのは珍しいなと思っています。現場では基本的にカイホリさんを通して(田中先生の)考えを聞くという感じでした。どういう思いでこのセリフを言っているのかなどが分からないときに、先生が教えてくれましたね。
――原作の田中先生は花江さんから見てどのような印象がありましたか?
花江:巻末コメントにプレイしたゲームや、プレイしてみたいゲームが書かれていて。原作のセリフの中にもゲームのことについて書かれていたので、ゲームから着想を得て、自分のものに変換させて『サマータイムレンダ』が作られているんだろうなと思いました。
僕もゲームが好きなので、そういうところが良いなと。また、音楽がMONACAじゃないですか。(9S役を演じている)『NieR:』でも岡部(啓一)さんが音楽を作られているので、最初にお会いしたときにそのお話をした記憶があります。
先生の好みでそういう音楽にして欲しい、というご希望があったというお話を聞きました。あと、田中先生はすごくおしゃれで、喋っていて落ち着きます。ガンガンくるわけではないんですけど、ちゃんと対話してくれる。そういうところが素敵だなと思っています。