『アストロノオト』OPテーマ「ホホエミノオト」降幡愛インタビュー|ボーカルのダブルトラックによる独特な世界観が「ホホエミノオト」の魅力
80年代の匂いを感じるSFラブコメ、TVアニメ『アストロノオト』。そのOPテーマ「ホホエミノオト」を歌うのが、アーティスト・降幡愛だ。また本作で、地下アイドルの顔を持つあすトろ荘の住人・松原照子を演じている。
日本が誇る名音楽プロデューサーであり作曲家の本間昭光による80’sサウンドのポップス。そして、降幡自身が作詞をするというスタイルで、声優アーティストとして独自の路線を貫いてきている彼女。最新アルバム『Super moon』も、シティポップの可能性を広げてくれるような作品だった。そして待望のアニメタイアップとなる5月29日にリリースされたシングル「ホホエミノオト」では、作詞:森雪之丞、作・編曲:本間昭光という、アニメファンなら胸が熱くなる名前がクレジットに並んでいた。シングルに収録される2曲について、たっぷりと語ってもらった。
「作詞:森雪之丞」のアニソンリストに加わった喜び
――TVアニメだと初タイアップになるそうですね。
降幡愛さん(以下、降幡):これまで邦画のタイアップはあったんですけど、アニメーションはこれが初めてなんです。活動的に、攻めたジャンルで勝負をしていた分、こんなにドンピシャでハマるアニメーションのタイアップができて、本当に嬉しいです。
――本格的な80’sサウンドを駆使したシティポップをやってきている印象は強いですからね。TVアニメ『アストロノオト』も、80年代のラブコメとSFを融合したような作品ですから、まさにぴったりだと思います。
降幡:そうなんです。ただ、お話をもらってから2〜3年くらい経っちゃっているので、やっと皆さんにお知らせできることができた、という感じで……。作品としても松原照子役として出演することになっていたので、言いたいのに言えない日々が続いていました(笑)。
――それはツラい…。ただ、TVアニメ『アストロノオト』、すごく面白いです!
降幡:キャストの方もチームの皆さんもすごく良い方で、アフレコも終始朗らかに進んでいました。2つのブースに分けての収録で、私は、若林蓮役の釘宮理恵さんと若林富裕役の杉田智和さんと一緒に録ることが多かったんですけど、杉田さんのアドリブが面白くて、ずっと「笑ってはいけない!」と我慢していました。
――かなり先輩の声優さんが多い現場ですよね。
降幡:周りが大御所の方々だったので、最初はガチガチに緊張していたんですけど、皆さんのお芝居に私も乗っからせていただいた感じで、本当に貴重な経験になりました。
――松原照子は、普段は酒飲みなんですけど、地下アイドルでもあるんですよね。
降幡:そうですね。普段の姿と地下アイドルの姿の二面性はあるんですけど、演じていてわりと自分に近い子だなと思っていました。蓮くんは子供なんですけど、やっちゃいけないことをやったときに注意したりするシーンは、すごくお姉さんっぽくて、歳を重ねたからこそ言えるようなセリフだったので、私も好きなシーンでした。ただの地下アイドルをしているアラサーではないというところは、皆さんにも注目してほしいところです(笑)。
あと地下アイドル「テルルン」として「ぴゅあぴゅあラブリー右フック」という挿入歌を歌っているんですけど、これはアフレコ前に収録をしていたんです。なので、総監督や監督がリモートでレコーディングに参加してくださって、振り切ったバージョンとかかわいいバージョンを録ったりしたんですけど、最終的に地下アイドル「テルルン」らしい歌になったなって思います(笑)。
――かなりパンチのある曲でしたよね。そしてアーティスト・降幡愛として、OPテーマの「ホホエミノオト」を歌っています。これはどのように制作していったのですか?
降幡:作曲と編曲は、デビューからずっとお世話になっている本間昭光さんにお願いをして、私も最初は作詞をしていたんです。ただ、なかなか良いものができなくて。で、私のカヴァーミニアルバム『Memories of Romance in Summer』で、中原めいこさんの「君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。」をカヴァーしていたこともあって、森雪之丞先生とのご縁でお願いすることになりました。
――森雪之丞さんと言えば、アニソン界でも大御所の作詞家さんで、「CHA-LA HEAD-CHA-LA」「お料理行進曲」、そして何より「悲しみよこんにちは」など、アニメファンなら誰でも知っている楽曲の作詞をしています。そんな方に書いていただけると知ったときはどう思いましたか?
降幡:ものすごくびっくりしました! それに、今まで基本的に自分で作詞をしていたので、どんな歌詞を先生は書いてくださるんだろうっていうワクワク感がありました。実際に歌詞を受け取ったときは「これ以上のものはないよね」というものだったので、プロのお仕事は本当にすごいなと思いました。
――途中まで自分で書いていたなら、なおさらですね。
降幡:何曲か本間さんの候補曲があって、それに歌詞を書いていたんですけど、私が書くとどうしても悲しい歌詞になるんです。100%のときめきとキラキラが当時どうしても書けなくて、先生はこう書かれるんだ!と思いました。しかも『アストロノオト』から『ホホエミノオト』っていうタイトルになる時点で、もうすごいんです!
――作家として、どこがすごいと感じました?
降幡:作品のストーリーを全部見た上での、ひとつキーとなる言葉、アニメのキーワードとなるようなワードを曲に入れるのが素晴らしくて。ラブコメのラブストーリーを歌詞にしているのではなく、ちゃんと『アストロノオト』のラブストーリーを歌詞にしているのがすごいんです。タイアップ曲って、そうだよねと思いました。
――かと言って、曲単体でも成立はしますしね。
降幡:そうですね。でも、ちゃんと作品に寄り添っている。あと、やっぱりストレートに愛を歌う歌詞が自分では書けないなと思ってしまいました。〈大好きデス〉や〈胸の薔薇がひとつ咲いて〉という歌詞は、なるほどと思いました。
――「ハネムーン」という曲で〈浮気なハネムーン〉って書いちゃう降幡さんですからね(笑)。
降幡:昨今の時代の風潮と逆行しているんですよね(笑)。
――ちなみに、森雪之丞さんの作詞曲で好きな曲はありますか?
降幡:それはやっぱり「悲しみよこんにちは」は外せないですよね。昔はどのアニメを見てもクレジットが出ていたイメージがあるんですけど、今でも青年の心を忘れていないのがすごいと思います。
――『らんま1/2』や『キテレツ大百科』など、本当にたくさん代表作がありますね。
降幡:80年代から90年代にかけて、かなり書かれている印象がありますから、その先生のリストに加わっただけでも嬉しいです。