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- わたなべみきこ
- 出産を機にライターになる。『シャーマンキング』『鋼の錬金術師』『アイドリッシュセブン』と好きなジャンルは様々。

日本の3人組ロックバンドMrs. GREEN APPLE(愛称:ミセス)。10代から20代の若者を中心に絶大な人気を誇っており、日本レコード大賞を数回にわたって受賞している他、「NHK紅白歌合戦」にも3年連続で出場しています。
『忘却バッテリー』の「ライラック」や『薬屋のひとりごと』の「クスシキ」などアニメ作品にも多数起用されているミセス。現在放送中のアニメ『葬送のフリーレン』ともオープニング主題歌「lulu.」でタイアップを果たしています。
アニメと音楽をこよなく愛する筆者は、どの作品も楽曲も含めて楽しんでいるのですが、この「lulu.」に関しては、毎話見るたびに目頭が熱くなってしまいます。まだ本編が始まっていないにも関わらず、です。
どうやらSNSなどを見てみると、こんな風になってしまっているのは私だけではない様子。そこで、『葬送のフリーレン』×「lulu.」を考察してみることにしました。
どうしてこんなに心の琴線に触れるのか、こんなにも心をギュッと掴まれたような気持ちになるのか、同じ気持ちになっているファンの皆さんとその理由を解明できればと思います。
まず指摘したいのは、歌詞全体が主人公であるフリーレンの視点のものだと感じさせるという点。その前提で歌詞を見ると、今は亡きヒンメルを想う彼女の寂しさがひしひしと感じられるのです。
曲の冒頭に<いつかのあなたの言葉が 酷く刺さってる 温かく残ってる>という歌詞がありますが、フェルンたちとの冒険の道中でフリーレンが度々ヒンメルの話をしたり、かつて彼からもらった言葉を、時を経て今度は彼女が仲間たちに伝えていることから、ここで歌われていることが間違いなく事実であることを示しています。
このように作中のフリーレンの行動とリンクする感情が丁寧に描写されているため、物語を知るファンは楽曲を聴くだけで該当するシーンと歌詞が繋がり、「確かにフリーレンはこう感じているかも」と、歌われている内容に強い説得力を感じるのです。
私自身が本楽曲を聞いた際に思い出したのは、コミックス第4巻第33話「フォル爺」(アニメ第1期第16話「長寿友達」)のお話でした。物語はフリーレンが長寿友達であるドワーフのフォル爺に会いに行くというもの。フォル爺は400年近く村を守ってきた強者の戦士で、あまりにも昔から村を守ってくれているため村人たちからは「守り神みたいなもの」と思われています。
彼が村を守り続けているのは、昔亡くした人間の妻が愛した村だったから。彼女と大昔に交わした約束を今も守り続けているのです。
物語の中でフォル爺は、ヒンメルの顔や声を覚えているかとフリーレンに問いかけ、フリーレンは「私を馬鹿にしないでよ。全部覚えている。ヒンメルは私が人間を知ろうとしたきっかけだよ。」「フォル爺が村を守ろうと思ったきっかけと同じで、大切なことだ」と少しムッとした様子で返します。
すると、それに対してフォル爺は「儂はもう思い出せない。顔も声も眼差しも。」「それでも儂は大切な何かのためにこの村を守っている。」と続けるのです。それを聞いたフリーレンは「……フォル爺は冗談が上手いね」と切なげな表情で一言。
このシーンが楽曲の<忘れないのに 何故か遠くなる>の歌詞と重なって仕方がありません。フリーレンとフォル爺は、おそらく年齢だけで見るとフリーレンの方がはるかに年上なのですが、大切な人間と死別してからの年月はフォル爺の方が数百年単位で長く、そんな彼の言う「少しずつ忘れてしまう」というのはフリーレンもそうなり得るということ。
長寿であるがゆえに遠い過去になっていく感覚や少しずつ記憶が薄れていくのを嫌でも感じてしまうのでしょう。「……フォル爺は冗談が上手いね」とどこか切なそうに言っていたのは、自分も同じようになるのでは、と考えていたからかもしれません。
大切なのに、忘れたくないのに、遠くなってしまう、薄れていってしまう、そんな寂しすぎる感覚を想像するだけで心が痛くなります。
さらに私が言及したいのは、フリーレン自身がここまで自分の感情をはっきり認識できていないのではないか、ということです。彼女は他人の感情に疎い人物として描かれていますが、自分自身の感情にもそれほど敏感ではないように思います。
特にヒンメルに対する感情は彼女の長い人生の中で経験のなかった感情であり、それを事細かに感じ取るのはなかなか難しいはず。実際、ヒンメルの葬儀でも初めはいつもと変わらない表情で参列しており、本当は抱いているはずのヒンメルが亡くなったことへの寂しさや悲しさを感じていないようでした。
フェルンたちと旅をする現在も、普段は寂しい様子を見せることなく淡々と生活しており、彼女が寂しさを強く感じていないことがわかります。
しかし、彼女の心の奥底にあるのは、ヒンメルの葬儀の日に大粒の涙を流したあの気持ち。彼女が自覚しているかは定かではありませんが、<瞳の裏にいつも君は居る 今もずっとそう>なのです。
普段はファンに感じさせない、ともすればフリーレン本人も自覚していないかもしれない彼女の抱えた言いようのない寂しさを丁寧に描写しているから、視聴者の涙腺を刺激するのでしょうね。
フリーレンの寂しさが痛いほど伝わってくる楽曲であることは間違いないのですが、サビに入った時の多幸感ある壮大なメロディと歌詞に大きな救いがあると私は感じています。
サビ部分のオープニングアニメーションで登場するのは、フリーレンの今のパーティメンバーであるフェルンとシュタルク。ファンの皆さんには言うまでもありませんが、フェルンはハイターが、シュタルクはアイゼンが「勇者ヒンメルならそうしたから」と彼の信念を受け継ぎ、育てることにした元孤児です。
2人との出会いはヒンメルたちがいたからこそ得られたもので、今のフリーレンにとっては<帰りたい場所>だと思える大切な存在。<いつかね もう少しね 世界に優しい風が吹いたら 何かかわるのでしょうか>という歌詞は、ヒンメルという優しい風が、彼が亡くなった今もなお世界中に様々な影響を与えていることを表しているように感じます。
ヒンメルをはじめとする仲間たちが遺してくれたフェルンとシュタルクが、ヒンメルを想って寂しさを募らせるフリーレンに花の冠をかけるアニメーションにグッときた方も多いはず。
ヒンメルを失ってしまったフリーレンですが、ヒンメルとの出会いがあったからこそ大切な仲間との温かい今がある。それが彼女にとってどれほど救いになっているか、我々には計り知れません。
勇者一行も、フリーレン一行も、人間、エルフ、ドワーフという違った種族同士でパーティを構成しており、本作ではその種族間での感覚の違いなどがよく描写されています。
時には分かり合えないようなこともありますが、オープニングの最後で歌われる<誰もがこの星の子孫>というフレーズは、種族が違っていても繋がりがあると歌っているようで、私はとても温かいものを感じています。人間とエルフとドワーフが協力してこの星の歴史を紡いできたのです。
このフレーズの後の<約束はね 大事にね 温かく残ってる>は、惑星規模の壮大な繋がりに対して、個人間の繋がりを歌っています。
ここでも私が思い出すのはフォル爺のストーリー。本話の中でフォル爺が「ヒンメルという偉大な勇者の記憶も儂が未来に連れてってやろう」とヒンメルに申し出るのですが、ヒンメルはそれを断り、自分達の記憶を未来に連れて行くことをフリーレンに託すのです。
フリーレンは「別にいいけど。」といつものドライな返しでヒンメルと約束を交わします。おそらく交わした当時はなんとも思っていなかったヒンメルとの約束も、今ではきっと大切な約束に変わっていることでしょう。
彼と交わした約束が、彼が繋いでくれた大切な仲間との今が、消えない寂しさを抱えるフリーレンの心を温かく灯してくれているのだと思います。
美しくどこか儚いAメロ・Bメロと壮大で祝祭感のあるサビのギャップが印象的で、言わずもがな楽曲そのものもとても魅力的である「lulu.」。ですが、『葬送のフリーレン』読者が「作品の解像度が高すぎる」と口々に評するほど、本楽曲は『フリーレン』の世界観が投影されています。
それもそのはず、作詞作曲を手掛けた大森さんのインタビューによると、アニメ制作陣からの「大森さんが描く本作のイメージを書いてください」というオファーの元、制作された楽曲だそう。この楽曲は『葬送のフリーレン』抜きには語れないのです。
もしまだ本作を知らないまま楽曲を聴いている方がいたならば、原作漫画でもアニメでもいいのでぜひ本作に触れてみてください。きっと「「lulu.」を聴くと必ず泣いてしまう魔法」にかかってしまうはずです。
| 作品名 | 葬送のフリーレン 第2期 |
|---|---|
| スケジュール | 2026年1月16日(金)~ 日本テレビ系にて |
| あらすじ | 勇者ヒンメル一行によって魔王が倒された世界。ヒンメルらと共に平和をもたらした千年以上生きるエルフの魔法使い・フリーレンは、寿命を迎えたヒンメルの死を受けての涙とその想いから、“人の心を知る旅”に出る。道中に出会った、かつての仲間ハイターに育てられた魔法使いフェルン、同じく仲間のアイゼンの弟子である戦士シュタルクと共に、魂の眠る地《オレオール》を目指すフリーレン。旅の中で出会う人々との交流、狡猾な魔族や魔物との戦い。時に穏やかに、時にくだらなく、時に激しく、時に胸に迫る…。その全てが、その一瞬一瞬が、3人のかけがえのないものとして積み重ねられていく。この旅の先に待っているものは、果たして――――。 |
| キャスト | フリーレン:種﨑敦美 フェルン:市ノ瀬加那 シュタルク:小林千晃 ヒンメル:岡本信彦 ハイター:東地宏樹 アイゼン:上田燿司 南の勇者:井上和彦 ゼーリエ:伊瀬茉莉也 レヴォルテ:三木眞一郎 |
| スタッフ | 原作:山田鐘人・アベツカサ(小学館「週刊少年サンデー」連載中) 監督:北川朋哉 副監督:原科大樹 監督協力:斎藤圭一郎 シリーズ構成:鈴木智尋 キャラクターデザイン:高瀬丸 小嶋慶祐 藤中友里 コンセプトアート:吉岡誠子 デザインワークス:小橋弘侑 原野瑠奈 瀬口泉 原科大樹 美術監督:高木佐和子 美術設定:杉山晋史 色彩設計:大野春恵 3DCGディレクター:今垣佳奈 撮影監督:伏原あかね 編集:木村佳史子 音響監督:はたしょう二 音楽:Evan Call アニメーション制作:マッドハウス |
| 主題歌 | OP:「lulu.」Mrs. GREEN APPLE ED:「The Story of Us」milet |
| 電子書籍 | 『葬送のフリーレン』電子書籍(コミック) |

1990年生まれ、福岡県出身。小学生の頃『シャーマンキング』でオタクになり、以降『鋼の錬金術師』『今日からマ王!』『おおきく振りかぶって』などの作品と共に青春時代を過ごす。結婚・出産を機にライターとなり、現在はアプリゲーム『アイドリッシュセブン』を中心に様々な作品を楽しみつつ、面白い記事とは……?を考える日々。BUMP OF CHICKENとUNISON SQUARE GARDENの熱烈なファン。
