劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM』木村昴さん、木村良平さん、荒川美穂さんインタビュー|『輪るピングドラム』にはわからない、けど惹かれる幾原ワールドがある【連載第2回】
新規アフレコの意外なNG
ーー劇場版のアフレコで10年ぶりにキャラクターを演じていかがでしたか?
昴:印象的だったのは、監督が「ダメだよ、そんなに上手にやっちゃ!」とNGを出したことですね。「もっと下手にやらないと! 全然上手くなっちゃってるよ!」と言うのでもう一回やると、「……うまいな〜、違うな〜、もっと下手にやってよ!」。で、どんどんテイクを重ねていくと「お、下手になってきた!」という。
一同:わははははは!(大爆笑)
昴:はたから見ると、監督のディレクションに応えられていないダメな声優なんですけど(笑)でも僕には褒め言葉に聞こえて。10年ぶりに高倉冠葉を演じて、「ちょっとはうまくなりました!」と感じた和気あいあいとした収録になりました。
良平:当時は下手くそと怒られ、今は上手すぎると怒られ……(笑)。
昴:当時の癖や雰囲気をなるべく思い出したら「いいね、冠葉になってきた」とOKをもらうこともありましたね。ピュアさを取り戻しました。荒川さんはどうだった?
荒川:プリンセス・オブ・ザ・クリスタルの録り直しで驚いたのが、自分では同じ尺でセリフを言っているつもりなのに、すごく早くしゃべるようになっていたみたいなんです。以前だと自分の辿々しさから時間をかけてしゃべっていたのが、今回はたっぷり演じるのに少し苦労しました。
良平:口が回るようになったんだね。
荒川:音響監督の山田(陽)さんからは「言えるようになっちゃったから、もう一回」とリテイクをいただきました(笑)。
わからない、けど惹かれる幾原ワールド
ーー最後に、今回の劇場版と幾原作品の魅力について、みなさんが感じていらっしゃることを教えてください!
昴:今回の劇場版は、TVシリーズの1話から24話までを順番にくっつけた総集編ではないんですよ。ものすごく組み替えしている。監督に聞いたら、「初めて見る人に面白さを伝えたい、TVシリーズを見た人にはもう一回見てほしい、そういうフックを作るためにも試行錯誤したよ」とおっしゃっていて。TVシリーズのシーンとは順番が変わることで、シーンのニュアンスが変わって見えたり聞こえたりで、幾原監督の編集の妙を感じます。
良平:劇場版で作られた新規オリジナル部分があることで、視点が変わる面白さがありますよね。TVシリーズのときは、晶馬が視聴者に近い視点ではあったけど、視聴者が自分で誰の視点で見るかを自由に選んでいた印象がありました。劇場版は編集によって視点が固定されているところが面白さだし、幾原監督の狙いがあるんだろうと睨んでます!
荒川:幾原監督の作品は、展開も演出も予想がつかない。台本を読んでいても、映像ができあがったら全然違うものに仕上がっていて、演じていても驚きがあるんです。たとえばTVシリーズ1話のプリンセス・オブ・ザ・クリスタルの「生存戦略」バンクシーンは、「なんかわからないけどすごいな」と圧倒されるような、直感的に惹かれるものがありますよね。
昴:幾原監督って、頭の中で描いているものが普通じゃない。僕らが頭の中を覗いたところでわからないような、景色や絵や色を見てるんじゃないかといつも思うんです。幾原作品の魅力は、そんな幾原監督の独自の感性に触れられるところじゃないかな。
良平:確かに!
昴:僕らが普段生きてて思い描くもの、触れられるものから、もうちょっと遠いところにある印象があるんです。僕らは視聴者としてのフィルターと作る側としてのフィルターのどちらも持っていて作品を見ていると思うんですが、幾原作品は作る側フィルターが超発動しちゃって、「やばい、なんでこんなのを作れるんだ?」と驚いてばかりです。
良平:エンタメの物語は、基本的にわからないと面白くないですよね。でも、関係ないんですよね、幾原さんの作品って。シーンや表現がわからなくても面白い。なおかつ、キャラクターの思いや物語の根幹といった「本当に大事なこと」はわかるように作っている。
ルールがわからないスポーツの面白さに近いのかも。さらに表現の豊かさや美しさ、飛躍した表現があることで、眺めているだけでも楽しい。それってすごいことだと思うし、とんでもない才能だと思っています。
昴:初めて『ピングドラム』を見るみなさんは、多分普段味わえないスリルや切なさ、ミステリアスさをきっと味わえると思う。ちょっといつもとテイストの違うアニメを見たいな……と思ったら、幾原監督のアニメを見てくれればバッチグーです!
[取材・文/青柳美帆子]
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『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM』作品情報
公開日:[前編]君の列車は生存戦略 2022年4月29日(金)/後編 2022年予定
STORY
これは、ある兄弟妹と、突然やってきたペンギンと、この世界の過去と未来についての物語であるーーー。
病気の妹・陽毬の命を救うため、謎のペンギン帽の命令により「ピングドラム」を探す高倉家の双子の兄弟・冠葉と晶馬。自身の運命を信じて日記に書かれた出来事を実現しつづける荻野目苹果。新たな運命を導くため萃果の日記を手に入れようとする夏芽真砂子。大切な運命の人を取り戻すために目的を果たそうとする多蕗桂樹と時籠ゆり。
彼らはそれぞれの運命と大切な人の為に「ピングドラム」を追い続けたのだった。
あれから10年ーーかつて運命を変える列車に乗り込んだ冠葉と晶馬が、運命の至る場所からひととき戻ってきた・・・。
『輪るピングドラム』とは?
2011年7月にテレビ放送されたオリジナルアニメ『輪るピングドラム』。星野リリィ原案による個性的なキャラクターたちや、「ピングドラム」とは何なのか?という謎が謎を呼ぶ展開、クリスタルワールドなどの独特のビジュアルを使用した世界観で、放送当時大きな話題を集めた。
やくしまるえつこメトロオーケストラとCoaltar of the deepersによる主題歌をはじめ、劇中キャラクターのTRIPLE HによるARBのカバー曲など、音楽面でも高い評価を得ており、今でも多くのアニメファンの間で語り継がれている。
STAFF
監督:幾原邦彦
副監督:武内宣之
原作:イクニチャウダー
キャラクター原案:星野リリィ
脚本:幾原邦彦・伊神貴世
キャラクターデザイン:西位輝実・川妻智美
色彩設計:辻田邦夫
美術:中村千恵子(スタジオ心)
アイコンデザイン:越阪部ワタル
CGディレクター: 越田祐史(スタジオポメロ)
VFX:田島太雄
撮影監督:荻原猛夫(グラフィニカ)
編集:黒澤雅之
音響監督:幾原邦彦・山田 陽
音響効果:三井友和
音楽:橋本由香利
音楽制作:キングレコード
アニメーション制作:ラパントラック
製作:ピングローブユニオン
配給:ムービック
CAST
高倉冠葉:木村昴
高倉晶馬:木村良平
高倉陽毬:荒川美穂
荻野目苹果:三宅麻理恵
多蕗桂樹:石田彰
時籠ゆり:能登麻美子
夏芽真砂子:堀江由衣
渡瀬眞悧:小泉豊
荻野目桃果:豊崎愛生
プリンチュペンギン:上坂すみれ