劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM』幾原邦彦監督、木村良平さんインタビュー|『輪るピングドラム』はストレートに「愛」なんです【連載8回】
「良平くんは僕より台本を読めています(笑)」
ーー続いてお互いの印象についてもお聞かせください。幾原監督が感じている「木村さんのお芝居の好きなところ」からお願いします。
木村:やだ〜(照)。
一同:(笑)。
幾原:テレビシリーズの時からそうでしたけど、台本を読めているのはすごいなと思いますね。よく「なるほどね」と気づかされることがあります。僕より読めていましたよ(笑)。
木村:いやいや、そんなことはないですよ(笑)。
幾原:僕も本を書く時はすごく考えているんですよ。だけど、長時間の作業になってくると大変な作業が押し寄せてくるので、最初に考えたディテールがごちゃまぜになるわけです。そういうディテールに対して問いを投げてきてくれるので、「そうだ、そういうことだった」と思い出させてくれて。ちゃんと台本を読んでくれているんだな、といつも感心させられます。
役者を隣にしてこんな話をするのはつらいんだけど(笑)、一言二言上手いセリフを言うのは誰でもできるんですよ。上手い人を真似すればいいだけなので。そうではなくトータルでしっかりフィールドをつくることは誰にでもできることではないなと。これはもう才能ですよね。
ーー先ほど木村さんは「考察はできないし、しようと思わないし、分からなくていいと思う」とおっしゃっていましたけど、幾原監督からすると木村さんは「台本が読めている」と。その矛盾がおもしろいですよね。
木村:幾原さんに言われてビックリしましたよ。僕は『ピングドラム』の台本が読めていると思ったことは一度もないですから(笑)。ただ「晶馬を演じる上で知っておきたいことが分かっていればそれで良い」という部分を大事にしているだけなんですよね。晶馬が見えていないことは見えていない方がいいなと思っているので、気にし過ぎないというか考え過ぎないようにしています。
それ以外は視聴者さんと同じように楽しんでいますよ。「おもしろ〜い」「高倉家の部屋の壁かわいい〜」みたいな感じです(笑)。
ーー(笑)。では、木村さんが感じている「幾原監督作品の好きなところ」はいかがでしょう?
木村:幾原さんの作品の好きなところか……。
ーー「幾原監督の好きなところ」でも構いません!
木村:監督に関しては、好きというよりも文句といいますか……本当に何を考えているか分からないんですよ。本当に考えているのか疑う瞬間すらありますから!
幾原:あははは。たしかに「ちゃんと考えてます?」「何も考えてなかったですよね?」ってよく言われる(笑)。
木村:(笑)。テレビシリーズのアフレコの最初の頃、キャスト陣で台本を読みながら「よく分からないけどすごいな」「芝居はこういう解釈で合っているのかな?」とか考えていたんですよ。それを幾原さんに対して質問すると「ああ、それもいいねぇ……」とだけ返ってくる。当時は「上手くごまかされちゃった、さすが幾原さんだな」と思っていたけど、そのやり取りを重ねていくうちに「あれ、実は何も考えてないのでは?」とキャストたちの中に疑いが生まれていって(笑)。
でもそれが逆にすごくワクワクしていたんですよ。何も考えていないかもしれない。だけど、もしかすると宝物が隠されているかもしれない。宝物に気づけたらよりおもしろいかもしれないと思わされる。それは作品にも通ずることだと思っています。だからお客さんも何回も見てしまうんじゃないかなと。
ーーなるほど。
木村:桃果とゆりの関係性について話していましたけど、カタルシスがちゃんとあってそれだけで1本の短編小説がつくれてしまうじゃないですか。そういうのが楽しいんですよね。小ネタやエピソードをたくさん詰め込んでくれている、あとは見る側が一つひとつ箱を開けていって、何を見つけられるか、そういう作品だと思う。幾原さんの作品を見ていると、いろんな気づきに嬉しくなります。
今一番推したい言葉が「愛」だった
ーー後編は「僕は君を愛してる」というサブタイトルなだけに、劇中も「愛してる」というワードが多くありました。なぜこれほどまでに今作では「愛」を強調したのか、最後にお聞かせください。
幾原:自分で言うのもおかしいですけど、『ピングドラム』って設定がごちゃごちゃしているじゃないですか。それで今作を手掛ける上でこれはどういう作品なのかと考えた時、ストレートに「愛」だなと。これをタイトルに入れることで、なんとなくそういう話しなんだろうと分かってもらえるのではないかと思いました。
あと、僕が今一番推したい言葉が、この言葉だったというのもあります。
ーー推したい言葉が「愛」だった。
幾原:世代的なことが大きいかもしれません。僕がポップカルチャーに触れていた高度成長期やバブルの頃って「愛」という言葉が流行っていました。80年代後半〜90年代前半の曲ってただただ「愛してる」と言っている。なぜそうだったのかを逆説的に考えると、「愛」が希薄だったからだと思うんですよね。とにかくお金が中心にある時代だったので、本来の自分の居場所を見失う人も多かった、その中で「お金じゃないよね、愛だよね?」と伝えたかったのではないかなと。
今はまた少し違って、年代問わず時代が大きく変わり、世代問わず心の中で「これに縋っていれば大丈夫」と思っていたものが形を変えたり通用しなくなったりするのを感じていると思うんです。そうやって世の中は変わっていくけど、「愛」が中心にあれば何とかやっていけるんじゃないかなと思うわけです。どんな世の中になったとしても、自分にとっての拠りどころや大切な人のために、「何ができるのか」と考えることが人の心を繋ぎとめるんじゃないのかなって。なんとなくそういうことを伝えたかったのかなと自分の中で思っています。
木村:キャラクター一人ひとりの年齢・性別・価値観が全く違うし、目的意識も違うのに、それらの動機は全部「愛」ですもんね。そこにすべて繋がっていくのがすごくおもしろい。サブタイトルやセリフを含め、テーマが「愛」だと明示してくれていることで、自分と重ねて考えることができる。それもまた作品と現実が地続きに感じられる要素の一つなのかなと思いました。
僕は今作で「受け取る愛」に重きを置いて見ていましたけど、幾原さんの話を聞いていると「与える愛」もあったのかと妙に納得させられて。今作で、自分が与える愛、自分が受け取った愛、そういうものをちょっと考えちゃいますよね。
[インタビュー/阿部裕華]
連載バックナンバーはこちら!
『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM』作品情報
公開日:[後編]2022年7月22日(金)予定
STORY
これは、ある兄弟妹と、突然やってきたペンギンと、この世界の過去と未来についての物語であるーーー。
病気の妹・陽毬の命を救うため、謎のペンギン帽の命令により「ピングドラム」を探す高倉家の双子の兄弟・冠葉と晶馬。自身の運命を信じて日記に書かれた出来事を実現しつづける荻野目苹果。新たな運命を導くため萃果の日記を手に入れようとする夏芽真砂子。大切な運命の人を取り戻すために目的を果たそうとする多蕗桂樹と時籠ゆり。
彼らはそれぞれの運命と大切な人の為に「ピングドラム」を追い続けたのだった。
あれから10年ーーかつて運命を変える列車に乗り込んだ冠葉と晶馬が、運命の至る場所からひととき戻ってきた・・・。
『輪るピングドラム』とは?
2011年7月にテレビ放送されたオリジナルアニメ『輪るピングドラム』。星野リリィ原案による個性的なキャラクターたちや、「ピングドラム」とは何なのか?という謎が謎を呼ぶ展開、クリスタルワールドなどの独特のビジュアルを使用した世界観で、放送当時大きな話題を集めた。
やくしまるえつこメトロオーケストラとCoaltar of the deepersによる主題歌をはじめ、劇中キャラクターのTRIPLE HによるARBのカバー曲など、音楽面でも高い評価を得ており、今でも多くのアニメファンの間で語り継がれている。
STAFF
監督:幾原邦彦
副監督:武内宣之
原作:イクニチャウダー
キャラクター原案:星野リリィ
脚本:幾原邦彦・伊神貴世
キャラクターデザイン:西位輝実・川妻智美
色彩設計:辻田邦夫
美術:中村千恵子(スタジオ心)
アイコンデザイン:越阪部ワタル
CGディレクター: 越田祐史(スタジオポメロ)
VFX:田島太雄
撮影監督:荻原猛夫(グラフィニカ)
編集:黒澤雅之
音響監督:幾原邦彦・山田 陽
音響効果:三井友和
音楽:橋本由香利
音楽制作:キングレコード
アニメーション制作:ラパントラック
製作:ピングローブユニオン
配給:ムービック
CAST
高倉冠葉:木村昴
高倉晶馬:木村良平
高倉陽毬:荒川美穂
荻野目苹果:三宅麻理恵
多蕗桂樹:石田彰
時籠ゆり:能登麻美子
夏芽真砂子:堀江由衣
渡瀬眞悧:小泉豊
荻野目桃果:豊崎愛生
プリンチュペンギン:上坂すみれ